地方ならではの暮らしを求めて、子育て世代の移住が増えています。「Trace」読者のなかにも、地方移住を考えている人がいるのではないでしょうか? 今回は、地方移住をサポートする「認定NPO法人ふるさと回帰支援センター」理事長の高橋公さんに、失敗しない地方移住の方法を教えてもらいました。
図1は、地方移住をサポートする「ふるさと回帰支援センター」の来訪者と問い合わせ数、セミナー開催数の推移です。これを見てわかるように、来訪者や問い合わせ数は年々増加し、それにつれて地方移住者も増えています。きっかけとして考えられるのが、2008年のリーマンショックと2011年の東日本大震災。企業の終身雇用が崩れつつあることも重なり、稼いで消費する都会型の暮らしより、自然とふれあいながら豊かな暮らしをすることに価値を見出す人が増えてきました。多様な価値観は、ますます見直され、今後も地方移住は増えていくでしょう。
かつて地方移住といえば、悠々自適に農のある暮らしを求めるシニア世代が中心でした。しかし、図2を見てもわかるように、ここ数年、地方移住の主役は20~40代。2008年には、全世代の30%ほどだった20~40代が、2017年は72%に増加。子育て世代が、働き子育てする場として、地方が選ばれています。

Iターンは生まれ育った地域(主に大都市)からどこか別の地方に移住すること。Uターンは出身地などとは別の地域(主に大都市)に移住し、その後また元の地方に戻ること。Jターンは地方からどこか別の地域(主に大都市)に移住し、その後生まれ育った地方近くの地方大都市圏や、中規模な都市へ移り住むこと。
孫ターンは孫が祖父母のいる父か母の故郷に移住すること。嫁ターンは妻の故郷に移住すること。

自分や家族が食べる分の食料を自給農でまかない、残りの時間は自分のやりたいこと(X)に費やすという生き方です。Xは、介護士や歌手など生き方によってさまざまです。

全国に840万戸あるといわれる空き家の物件情報を地方自治体のホームページ上で提供するしくみ。空き家所有者は、親族や近所の目を気にしたり、先祖代々の土地を他人に渡したくないといった理由で、空き家のままで放置してしまう傾向にありますが、最近は、宅建協会の協力による取り決めで、空き家が掘り起こされることが多くなっています。

地方ならではのビジネスで起業したり、農業で成功して高収入を得るケースもあるようですが、やはり地方は大都市と比べて求人自体も少なく、大都市での暮らしより収入が下がるケースが多いようです。しかし見方を変えれば、地方での暮らしの方が食費や居住費が下がるケースが多くみられるということ。大都市での消費型の暮らしがよいか、地方での自給型の暮らしがよいかを考えてみましょう。

地方に移住すると、休日や帰宅後はのんびりゆったり過ごせると思われがちですが、実際は地域での集まりや行事に時間をとられて、自由になる時間が少ないということも。人が少ない地域では、お互い助け合って生きていかなければなりません。こうしたコミュニティを楽しむ気持ちを持つと、地方移住はうまくいきます。

電車やバスの便が悪い地方では、クルマの所有と免許証は、自分の足として必須。クルマがないと、買い物も通勤もできず、行動範囲や人間関係もせばまってしまいます。そのため、大人1人につき1台所有ということも珍しくありません。どうしても免許が取れない人は、街中に住むなど工夫をしてみましょう。
地方移住を具体的に考えるときには、①誰と移住するか ②生活費をどう捻出するか ③どこでどのように暮らすか、を話し合います。①は、一人・夫婦・パートナー・子連れなど、誰と地方移住するかを決めます。②は、若い世代であればどんな仕事をするか、シニア世代であれば貯金や年金をどれくらいかけるかを考え、生計をたてる手段を決定。③は、生活費や生活スタイルをふまえて、どこへ住みたいかを考えます。
地方移住の情報は、雑誌やWEB、自治体のホームページなどに載っています。それらを参考にして、どの自治体が自分たちの希望する暮らし方にフィットするかをチェック。働き方、子育て、生活スタイル、気候、医療機関の充実などさまざまな項目を見てみましょう。
移住の方向性が固まってきたら、東京・大阪にある「ふるさと回帰支援センター」を訪ねてみましょう。ふるさと回帰支援センターには、各道府県の資料コーナー・相談窓口があり、移住・就職相談員がいます。まずは、センター職員に現状を伝え、どの自治体を検討しているか、自分たちにはどのような自治体がフィットするかを相談します。
ふるさと回帰支援センター(東京):東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館8F
大阪ふるさと暮らし情報センター:大阪市中央区本町橋2-31 シティプラザ大阪1F
センター職員とのヒアリングor面談後、希望により各道府県の移住・就職相談員を紹介され、相談内容を引き継いでもらえます。各道府県の相談員は、住む場所や仕事の相談を個別に対応。東京・大阪それぞれセンター内にハローワーク(分室)の窓口もあるので、そこで全国の就職相談をすることもできます。
興味のある地域があれば、各自治体が開催する移住セミナー(無料)を聞いてみましょう。移住セミナーは、暮らし、仕事、就農、交流会などテーマもさまざま。実際に移住した人の話や、自治体関係者による地域や支援の紹介を聞いたり、相談を受けてもらえます。自分の関心にあった地域とテーマを見つけて参加してみましょう。
移住先候補が決まったら、実際に現地を訪問します。どこの自治体も移住体験ツアーを用意していることがほとんど。現地までの交通費はかかりますが、見ておくべき訪問先をアテンドしてもらえ、宿泊先は通常より安く手配してもらえます。そこで、本当にその自治体での暮らしがフィットしそうかをシミュレーション。ステップ3~6をくり返し、自分にあった地域を見つけていきます。
移住先が絞りこめたら、現地での住む場所と仕事を、ふるさと回帰支援センターの各自治体やハローワークの相談窓口を活用して探し、手続きをします。勤務する場合は面接やあいさつを、就農する場合は農地の賃借や譲渡手続きを済ませましょう。住む場所は、不動産業者を通じて賃貸を探す方法もありますが、空き家バンクや移住する人向けの住宅を利用する方法もあります。
住まいと仕事が決定したら、いよいよ移住です。引越しをしたあとは、あいさつ回りをして地域になじむことが大切です。自治体によっては、あいさつ回りをサポートしてくれるところもあるので、上手に活用しましょう。
ズバリ他人の言うことを聞かず、自己主張ばかりする人は地方移住に向きません。地方は、地域のコミュニティがあって成り立っています。移住したあとは、地域コミュニティに参加し、集落の集まりやお祭りなどを自分たちで運営する必要があります。「郷に入っては郷に従え」の精神がない人は、考え直したほうがよいでしょう。
移住セミナーや体験ツアーは、各自治体でさまざま開催されています。この秋、開催されるイベントをチェックしてみましょう。
■ 2018年10月6日~7日 長野県小谷村「おたり旅・秋」
小谷の四季を満喫しながら、魅力を発見するイベント。移住者の案内で行く集落散策、きのこ狩り、栃餅づくりなどの体験ができる。参加費1万1000円(税込み、宿泊費込み)
■ ~2019年3月 静岡県島田市「移住体験ツアー林業編」
林業を教わりながら島田市川根町の暮らしを体験。2泊3日の日程で参加費はほぼ無料で、交通費も上限1万円まで補助される。
認定NPO法人ふるさと回帰支援センター
地方移住を希望する人の増加を受け、2002年に設立。地方暮らしやIJUターン、地域との交流を深めたい人をサポートするため、東京・大阪を除く45道府県の自治体と連携。無料で地域の情報を提供し、都市と農山漁村の橋渡しによって地方の再生、地域活性化を目指している。
https://www.furusatokaiki.net/

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