老眼といえば「ある程度年齢を重ねてなるもの」と思われるかもしれませんが、スマートフォンなどの影響もあり、最近は若い頃から老眼が気になり始める人も多いといいます。とはいえ、実際に老眼になったら、どうしたらよいかわからない人は多いはず。そこで、今回は老眼デビューのあれこれを眼科医の平松類先生に教えてもらいました。
私たちの目は、遠くのものを見たあとでも、近くのものを鮮明に見ることができるようになっています。それは、人間の目が物体との距離に応じて自動的にピントを調整しているからです。具体的には、レンズの役割を果たす水晶体の厚みを変えることで、ピントを合わせています。遠くを見るときは、毛様体筋という目の周りの筋肉をゆるめて水晶体を薄くし、近くを見るときは、毛様体筋を緊張させて水晶体を厚くしているのです。さまざまな理由によって、このピントの調整能力が落ちた状態を「老眼」といいます。
老眼は、水晶体の硬直化、毛様体筋や脳の処理能力の低下によって、引き起こされます。これらは基本的に年齢とともに衰えますが、それ以外にも普段の生活や体質、目の使い方、栄養の取り方、もともとの近視や遠視などにも影響されます。実際に、若くして白髪になる人もいれば、年齢を重ねても白髪がない人もいるように、老眼になる年齢はさまざま。「老眼」という名前からして、いかにも加齢が原因に思われますが、あくまでそれは原因の1つなのです。

スマートフォンが生活に欠かせないアイテムになってから、「スマホ老眼」という言葉を聞くようになりました。スマホ老眼とは、スマホやタブレットなどを長時間使用することによって、ピントの調整機能が落ちて、目が痙攣している状態を指します。つまり、目の使い方によって起きる老眼の一種です。とはいえ、加齢による老眼と違って、目を休めたり、スマホ等を見る時間を減らしたりすることで元の状態に回復することができます。しかし、スマホ老眼も本格的な老眼を引き起こす一因になると考えられているので、注意が必要です。

老眼は一般的に40歳前後で始まることが多いようです。しかし、水晶体や毛様体筋、脳の機能は年齢とともに衰えることから、10代をピークにピントの調整能力は落ちています。年月を経て、手元30cmくらいがぼやけるようになるのがだいたい40歳くらい。つまり、老眼とは40歳頃、突然に発症するものではなく、徐々に始まっているものなのです。

普段、裸眼の人は裸眼のまま、メガネやコンタクトの人はメガネやコンタクトのままで、目と水平に腕を伸ばし、できるだけ遠くで人さし指を立てます。

人さし指を徐々に近づけていって、視界がぼやけるポイントを計測。目からの距離が30~40cmであれば老眼予備軍。30cm以下なら老眼です。
老眼になってしまったら、老眼鏡しか選択肢がないように思われますが、現在は対処法もさまざま。老眼鏡をかけない方法もありますし、老眼鏡自体の種類もいろいろあります。選択肢を知って、最適な方法で対処しましょう。
老眼用のメガネをかける場合は、両用メガネとメガネをかけかえる方法があります。両用メガネとは、遠くと近くといったように1つのメガネで2つの距離の視界をカバーできるもの。つまり、両用タイプは老眼になってもメガネ1本で済ませることができるのがメリットとなっています。
「遠近両用」は、遠くから近くまで見えるタイプ。もともと遠くが見えにくい近視の人が老眼になったときにメガネをかけかえず、1本で利用するときの代表的な老眼鏡がこれ。車の運転をする場合は、このタイプがおすすめです。ただし、高価なことと、慣れないうちは目が疲れやすいのが難点です。
両用メガネのうち、中間から手元の距離をカバーできるのが「中近両用」。運転もしないし、それほど出歩くわけでもないという生活スタイルの人におすすめできます。
両用メガネのうち、パソコンから手元の距離をカバーするのが「近近両用」。近くを見る作業が多くて、仕事でもパソコンを使う人におすすめです。
遠くを見るメガネと老眼鏡のみのメガネをかけかえる、もしくは遠くが見えている人は老眼鏡のみをかけるという方法もあります。この場合、老眼鏡にかけかえる手間はあるものの、必要なシーンに合わせられるため、目が疲れにくく、鮮明に見えるメリットがあります。
コンタクトにも老眼用があり、3つの選択肢があります。老眼鏡をつけていることを周りに知られることはありませんし、何よりメガネよりも軽快です。ただし、慣れないうちは目が疲れるかもしれませんし、メガネよりもレンズの機能は劣ります。
遠くでも近くでも見ることのできるコンタクト。ただし、レンズの機能としては、「それなり」という程度。とはいえ、老眼になる前もコンタクトだった人にとっては、かなり使いやすいはずです。
モノビジョンコンタクトはコンタクトの種類ではなく、使い方のこと。例えば、右目に遠くが見えるコンタクトをして、左目に近くが見えるコンタクトを使用する方法です。こうすることで、両目で物を見たとき、無意識に遠くのときは右、近くのときは左と脳が判断し、結果として両方が見えるのです。遠近両用よりも安価で済むのがメリットです。
初期の老眼の場合には、中間距離にピントをあわせた弱めのコンタクトという選択肢もあります。遠くもまあまあ見えて、近くも自分の調整機能で見えているという状態に。それなりに見える程度でいいという場合におすすめです。
メガネやコンタクトで対処せずに、目そのものを手術する方法もあります。リスクもありますが、老眼そのものが気にならなくなるメリットは大きいでしょう。
目の中の水晶体というレンズを人工レンズに入れ替える方法です。白内障手術と同時に老眼が治せるので、白内障を患っている人におすすめ。日本での手術例が多く、トラブルの対処法もわかってきています。
レーザー光線で老眼用に角膜を変えて、矯正する方法です。あまり普及していないのと、ドライアイになりやすい、また合併症の問題もあります。
コンタクトを寝ているときに装着して老眼を治す方法です。寝ているときにピントを変えることで老眼を矯正します。1回ごとに元に戻るので、毎日コンタクトを付ける必要があり、根気のいる治療です。
老眼対策にはさまざまな選択肢がありました。実際に選択するときは、自分がどんな生活スタイルで老眼と付き合っていくのかを考えることが大切です。そのうえで眼科医に相談すると、さまざまな選択肢の中から生活スタイルにあったレンズ、または手術を提案してくれるはずです。いきなりメガネ屋さんに行くという方法もありますが、店舗によっては高価な遠近両用メガネを勧められることもあるので、眼科医に相談する方がおすすめです。
老眼になるかどうかは、水晶体の柔らかさと毛様体筋の強さがカギになっています。また、目で見たものは脳で処理されるので、脳の処理能力もピント調整能力に関わります。これらは、ある程度トレーニングで良くすることもできるので、老眼になるのを遅らせたい人には有効な手段です。ここでは毛様体筋にまつわるトレーニング法を2つ紹介します。

裸眼の状態で、100円ショップなどで売っている「+2」の老眼鏡をかけて遠くを見ます(普段、近視のメガネをかけている人はメガネを外した状態で見る)。すると、ぼやけた視界になるため、毛様体筋が機能できず、休めることで毛様体筋の機能が回復します。1日1~2回、5分程度行います。実際の医療現場でも行われている方法を応用したもので、効果はありますが、クラクラすることがあるので周りに注意。また、遠視の人はやめましょう。

人さし指を立てた状態で手を遠くまで伸ばし、人さし指を見ます。指をだんだん近づけると、どこかでぼやけて見えるので、そうなったら遠くに戻すという動きを繰り返す方法です。毛様体筋が動くことで緊張がほぐれます。1日2回、5分程度行います。

監修:平松類先生
眼科専門医、医学博士/二本松眼科病院勤務。昭和大学兼任講師。診察を受けるために全国から患者が訪れる人気医師。メディア取材に積極的に応じ多くの講演もこなし、患者以外にも広く眼科医療情報を提供している。『老眼のウソ 人生をソンしないために』など著書多数。

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