接待や記念日などで高級レストランを利用する際、美しい食べ方やおとなの振る舞いを知っていると、その場がいっそう楽しくなるものです。今回は、フードプロデューサーの小倉朋子さんに、高級レストランでのマナーを教えていただきました。
ディナータイムが始まる前の15〜17時など、お店が忙しい時間帯をさけて、予約の電話をかけると良いでしょう。日時や人数などのほか、お店のドレスコードを確認したり、アレルギーや席の希望(接待なので個室にしてほしいなど)があれば伝えます。記念日などでお願いしたいことがあれば、「何かお願いすることはできますか?」と質問形にして聞くのがポイントです。お店のほうから「メッセージを書きましょうか?」などと提案してくれるでしょう。さらに、予算がある場合も「ワインを頂戴したいのですが、お手頃なものはいくらくらいになりますか?」と質問形にしたほうが、直接値段を伝えるよりもスマートです。
上で紹介した通り、予約時にあらかじめドレスコードがあるかどうかを聞くのがマナーです。代表的なドレスコードは3つあります。
女性の場合、昼間は露出を避け、肩や胸を出したりしないアフタヌーンドレス、夜はイブニングドレスを着用します。男性の場合、本来は燕尾服ですが、最近はコーデュロイなどのカジュアルな素材でない黒無地スーツでも可。
略式装のこと。会食や星付きレストランに行くときはこのスタイルで。結婚式に呼ばれたときのワンピースやスーツをイメージしてください。
女性ならワンピースやスカートにブラウスなどのきれいめの服装。男性ならネクタイとジャケット着用。コース料理に行くときはこちらを基本にしましょう。
レディファーストが基本の欧米では、女性が上座に座るのがマナーです。女性は、先に着いても堂々と奥の席に座りましょう。そのほうがご一緒する男性に恥をかかせないことになります。ちなみに、中華レストランでも上座に女性が座るのがマナーとされています。
ビジネスバッグなどはクロークに預け、貴重品だけをテーブルに持っていきます。女性は、貴重品だけが入るポーチをしのばせておくと、こなれた人という印象になるでしょう。クロークに預けられないレストランの場合は、背もたれに置き、大きいバッグの場合は床に置きます。
食事にはテーブルマナーがありますが、それにとらわれすぎて食事相手とコミュニケーションが取れなくなってしまっては意味がありません。美しく食べるためにはその基本となる心構えがあるので、まずそれを頭に入れておきましょう。
ナイフとフォークを扱うことだけに意識を向けず、顔を上げて食事相手との会話を大切にしましょう。
一寸(約3cm)に切って口に運ぶようにすれば、きれいに見え、会話の邪魔にもなりません。
フォークの先やナイフの刃は相手に向けず、自分に向けるようにします。
カトラリーの金属音やスープをすする音など、楽しい会話以外のノイズは“キャンセル”が基本。
美しく盛られた料理はそれを崩さずに食べるのがマナー。皿の上も散らかさずに食べ終わることを心がけましょう。
スプーンですくう方向は、手前から奥が英国式、奥から手前がフランス式ですが、どちらでも構いません。スープをこぼさず、音も立てないようにするには、スプーンに3分の2程度をすくい、水平にして口に運び、下唇にあてるようにしてから、スプーンを傾けて口に流し入れるようにします。
ナイフで切り終わったあとにフォークを右手に持ち替えて食べるのは「ジグザグ持ち」というタブー。高級レストランでは、ナイフとフォークを使って食べましょう。
- まとめて束のところをフォークで刺します。
- ナイフで壁をつくってフォークで刺します。
- ひと口大に折りたたんでフォークで刺します。
- ナイフでサポートし、フォークに乗せるようにすくっていただきます。
フレンチやイタリアンのオードブルは、皿のなかにちょこちょことさまざまな料理が盛りつけられていることがあります。一番手前のものから食べ始め、時計回りに食べ進めると良いでしょう。
肉料理は食べるときにひと口大に切り、その都度いただきます。まとめて切って、フォークを右手に持ち替えるのはマナー違反。また、仔羊のローストや鴨のコンフィ、スペアリブなどの肉料理は骨にそってナイフを入れれば簡単に肉を外せます。
- 骨にそってナイフを入れ、骨から肉を外します。
- 外した肉を皿の手前に置いてひと口大に切っていただきます。ちなみに肉を裏返すのはNGです。
魚用のナイフ(フィッシュスプーン)の使い方を覚えて品よく食べましょう。
- フォークで白身魚の身を押さえて、フィッシュスプーンで切ります。
- 切り分けた魚とソースをフィッシュスプーンにのせるか、フォークに刺して口に運びます。
チーズは手で食べるのではなく、ナイフとフォークが出されていればそれを使って、小さく切って食べます。クラッカーの場合は、切ったチーズを乗せて手で食べてもOKです。

使用するナイフとフォークがずらりと並べられているのが一般的です。このときは、外側からナイフとフォークをペアで使いますが、ペアでないものはスープなどのスプーンとして使いましょう。

食事中は「ハ」の字にして、皿からずり落ちない位置に置きます。食後はナイフとフォークを揃えて置きますが、このときもお店の人がナイフとフォークを落とさないように皿の中心に近い場所に置きます。

ビストロなどカジュアルなお店では、レストが用意され、ナイフやフォークをその都度取り替えず、1ペアのナイフとフォークですべてを食べます。一皿を食べ終えたら皿の上に乗せず、レストの上に置きます。このとき、ナイフやフォークにソースが残っているとテーブルクロスが汚れてしまうので注意しましょう。

ナイフとフォークがある場合、フォークを右手に持ち替えて食べるのは「ジグザグ持ち」というタブー。フォークの“腹”の部分に乗せて食べるのがマナーです。最後のほうになったらごはん粒を残さないよう、ナイフを使ってフォークにごはんをよそうようにするときれいに食べられます。
ナプキンは料理を出してもOKというレストランへの合図なので、席についたら膝の上に2つ折りにして置きます。手や口の汚れを拭くときは、内側を使用。席を離れる場合は、椅子の上に置きます。食べ終えてテーブルに置くときは、きれいに畳んでしまうと「おいしくなかった」という合図になってしまうので、適当に置いて去るのが良いでしょう。
カトラリーを落としたら自分で拾わずに、「すみません」とサービス担当を呼び、拾ってもらいます。ワインをこぼしてしまったら、自分のハンカチでこすらずにパッと上から押さえます。このとき、クリーニング代として数千円程度をさりげなく渡すのが大人のマナーとされています。

一般的なコース料理は2時間で食べ終えるのが目安です。
また、相手の食べるスピードに合わせるのも、食事を楽しく
いただく基本です。

食事中の中座はなるべく控え、我慢できるならデザートの後にします。携帯電話もマナーモードにして電話に出ないほうが良いですが、緊急に電話が入るおそれがある場合は、食事相手に事前に伝えておくようにしましょう。

ワインをボトルで注文すると、近くに置かれる場合があります。だからといって自分たちで注ぐのはNG。サービス係に合図し、注いでもらいましょう。そのほうが、ワインをこぼしたり、水滴が垂れたりせずに済みます。
予約をしておいて、土壇場になってキャンセルしたり、キャンセルの連絡すらしないケースが少なくないようです。予約のキャンセルは、席数の少ないレストランにとって大きな打撃。予約を入れたことで、ほかのお客様を断っている可能性もあるため、やむを得ずキャンセルすることになってしまった場合は、わかった時点ですみやかに電話を入れましょう。キャンセルポリシーを設けているお店の場合は、もちろんそれに従ってください。

監修:小倉朋子さん
株式会社トータルフード代表取締役。フードプロデューサー
飲食店のコンサルティング、メニュー、戦略開発他、諸外国の食事マナー&総合的に食を学び広い視野で強く美しく生きる教室「食輝塾」を主宰。食事作法、伝統食、トレンド、食育、箸、食文化、ダイエット、地球食環境他、グローバルな専門が特徴。テレビ、ラジオなどのメディアにも多数出演する。『世界一美しい食べ方のマナー』他、著書多数。最新刊『仕事ができる人ほど大切にしたいこと 「食べ方」を美しく整える』好評発売中。

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