そもそも「方言」とは地域それぞれの言葉の違いで、絶対的な区分が存在しないため、方言の“数”を特定することはとても難しいもの。ただし、例えば日本における方言学の基礎を築いた東条操の説では、方言は「内地方言」と「琉球方言」に大きく分けられ、内地方言はさらに「東部方言」「西部方言」「九州方言」に分けられると考えられています。
地域の訛りなどが少ない、いわゆる「標準語」「共通語」はどちらも同じような言葉に思えますが、実は微妙に使われ方が異なるようです。
明治の中頃まで方言しか存在していなかった日本で、政府が統一国家にふさわしい言葉として普及を図ったことが始まり。「共通語」よりも“理想的”かつ“規範的”な意味合いが強いといわれています。
方言の差があっても、全国共通で意思を通じ合うことのできる言葉=「全国共通語」を略したもの。人と人のコミュニケーションのなかで自然発生的に生まれるもので、実用的な言葉という意味合いが強く、最近では「標準語」より使われることも多いそう。
例えば、関西で使われている「なんでやねん!」といった方言は、テレビなどマスメディアの普及で広く使われるようになりました。このように、全国共通で通じるようになれば、方言も共通語になるということ。言葉は生き物といいますが、方言と共通語の関係も、日々移り変わっているのかもしれませんね。
出典:(株)マイナビ マイナビニュース 「方言に関するアンケート」2015年11月 男女484名 (ウェブログイン式)
地元では当たり前のように使っていたからこそ、よその土地でうまく通じずに「これは方言だったんだ!」と驚いた経験はどなたでもあるのではないでしょうか。地元以外で通じなかった方言をまずは聞いてみました!
●「『手袋をはく』という表現。普通は『手袋をはめる』と言うんですね」(北海道出身・30代男性)
北海道出身者のなかには、「だるい」「疲れた」という意味で使う「こわい」という方言が通じなかったという意見も。
●「『机をつる』。『机を運ぶ』という意味ですが、『釣る?』と言われます」(岐阜県出身・40代女性)
愛知県出身者にも見られた意見。また、愛媛や奈良県出身者からは、同じ意味で「机をかく」と表現するという話も。
●「『そうだよね』というニュアンスで『だこら』と言ったら、『え、怒ってる?』と聞かれた」(宮城県出身・30代女性)
「だこら」のほかに、「だから」とも言うのだそう。どちらにせよ、混乱してしまいそうですね。
●「『ジャンボ』。『髪の毛』のことで、『ジャンボ刈ってこい!』というと、『ジャンプ買ってこい!』と聞こえるみたいです」(青森県出身・40代男性)
チョンマゲを落とした散切り頭の坊主のことを「ザンボ」と呼び、それが訛って「ジャンボ」と言われるようになったとか。
●「『幸せます』という言葉。『嬉しいです』という意味でビジネスの場で使うことがあるのですが、他の地域ではあまり使っていないと聞いてちょっとビックリ」(山口県出身・20代女性)
ビジネスの場では共通語を使うことが一般的。でも、方言と気付いていなかったらこんな驚きも少なくないかもしれませんね。
字面は同じでも、地域によっては異なる意味で使われていることも多々あるようです。
●「『(ゴミを)ほる』。『捨てる』という意味で使います」(大阪府出身・30代女性)
関西圏の人から多かった意見。「ほる」のほかに「ほかす」とも言うそう。
●「『こわい』。共通語だと『怖い』だが、山形の一部では『疲れた』という意味で使っている」(山形県出身・50代以上男性)
北海道、茨城などの出身者からも同様の意見があった一方、富山県出身者からは、「こわい」は「(ごはんが)かたい」などの意味で使うという意見も寄せられました。
●「『えらい』。『偉い』以外に『しんどい』という意味もある。つい使ってしまって、意味が通じずにポカンとされることがある」(山口県出身・20代女性)
こちらも「疲れた」という意味ですが、山梨、愛知、兵庫、岡山、岐阜、三重、広島、香川など、広い地域に分布する表現のひとつ。
●「『かく』。 共通語なら「背中を掻く」といった使い方。奈良では『物を持ち上げて運ぶ』意で使う」(奈良県出身・30代男性)
大阪や愛媛県出身者からも「机をかく」などと使うという意見がありました。知らなかったら混乱してしまいそう……。
●「『ワイハ』。ハワイの業界用語っぽい言い方にみえるが、驚いたときに発する言葉です」(青森県出身・40代男性)
こちらはユニークな方言。たしかに「ワイハ? ハワイのこと?」と聞き返してしまいそうですね。
言葉は生き物ですから、流行り廃りがどうしてもあるもの。方言としてはポピュラーでも、地元の人のあいだではすでに使われていないこともあるのだとか。
●「広島弁の『〜でがんす』は現在使われていない。年配の人は使っているみたい」(広島県出身・50代以上男性)
歴史もののドラマなどで耳にすることもありますが、もう廃れてしまっているようですね。
●「宮城の方言で『かわいい』の意味の『めんこい』は、かなりのお年寄りの人しか使わない」(宮城県出身・20代女性)
商品名では使われていることも多い方言ですが、こちらも実際には使われることは少ないそう。
●「北海道の方言『なまら』。 実際にはあまり使っている場面を見かけない」(北海道出身・30代男性)
「非常に」という意味の方言。一時期、若い人が好んで使っていたことがあったといいます。
●「テレビで見て知った『ちんちんかく』。『正座する』という意味だそうですが、聞いたことがない」(富山県出身・20代女性)
「鎮座」が変化した表現といわれていますが、知らなかったらドキッとしてしまいますね。
●「大阪弁の『でんがな』『まんがな』。使う人はいてない」(大阪府出身・40代男性)
「〜でんがな」も古い表現のよう。大阪観光の際は気をつけたほうがよさそうです。
最後に、地元以外で好きな方言があるかどうかをアンケートしてみました。あなたの出身地はランクインしていますか?
京都を選んだ人の多くが、言葉の響きの上品さや優雅な感じに惹かれているようです。大阪弁はイントネーションのおもしろさ、そして福岡の方言は「かわいい!」という意見が圧倒的でした。
【参考文献】
徳川宗賢編「日本の方言地図」(中公新書)/真田信治「方言の日本地図 ことばの旅」(講談社)/篠崎晃一+毎日新聞社「出身地(イナカ)がわかる方言」(幻冬舎文庫) ほか
※ ご紹介した方言は、必ずしもその地域すべてで使われているとは限りません。