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Special Interview 吉川美代子さん

女性アナウンサーの活躍の場がまだ限られていた1970年代にTBSへ入社し、報道番組を中心に第一線で活躍してきた吉川美代子さん。アナウンサーというお仕事についてお話を伺いました。

吉川さんが40年近いキャリアの中で感じられた、アナウンサーというお仕事のやり甲斐について教えてください。

ベルリンの壁崩壊やソ連崩壊のような、歴史的瞬間に立ち会えること。また、後々になって歴史の教科書に書かれるような出来事の真っ直中に身を置けることでしょうか。報道のアナウンサーは「殺人事件が起きました」とか「株価が上がりました」とか、事実を “結果”として伝える場合と、事実がわからない中で、さまざまな情報が収斂(しゅうれん)していく“過程”を伝える場合があります。私がニュース番組を担当している何年かのあいだに、全貌が見えなかったものが明らかになることだってありますし、そういうダイナミズムの中にいられることは、醍醐味といっては語弊がありますが、アナウンサーという仕事ならではだと思います。

正しい日本語の表現者としてはもちろん、局や番組の顔としての責任感も求められ、肉体的にも精神的にもタフじゃないと務まらない仕事ですよね。

報道番組を担当しているときは常に臨戦態勢。局から呼び出しがかからなくても、自分で動いて情報を収集する必要がありましたし、デスクをやっていたときは、何がなんでもまずは私が局に行って、みんなを招集しないといけませんでした。精神的な緊張がずっと続いていましたから、定年退職したら、夜、眠るのが楽になりましたね(笑)。

現在はフリーアナウンサーとして、情報番組やバラエティ番組にも活躍の場を広げられています。報道系のお仕事とどんな違いを感じますか?

バラエティ番組に出演して驚いたのが、MCをやっている芸人さんやタレントさんの頭の回転の速さ。ズバ抜けていますよね。モノの見方がとてもシャープだし、社会の出来事に対する反応力もあって、ニュースキャスターみたいな仕事もできる。最近は関西系のタレントさんや芸人さんが全国放送のゴールデン番組に進出して、関西弁のMCに抵抗がなくなりましたが、教養豊かで正しい標準語をしゃべることができるアナウンサーが少なくなっている中、アナウンサーの仕事の領域が侵食されてきていると感じます。
昔は、先輩アナウンサーの指導はとても厳しいものでしたし、番組プロデューサーやディレクターもアクセントやイントネーションにうるさかったんです。おかげで私はアナウンサーとして成長することができたわけですが、いまは、きちんとした日本語をアナウンサーに求めなくなってきて、それよりも個性と容姿が優先される。もちろん、そんなことでいいはずはないのですが、バラエティ番組でタレントさんにいじられて楽しそうにしているアナウンサーもいますから、アナウンサーという仕事の枠が広がったというか、昔とはまったく違ったものになっている感じがしますね……。

吉川さんがアナウンサーに求めるものとは、どんなものなのでしょう?

ニュースの内容を理解して、視聴者に“言葉”としてきちんと伝えることが最低限。内容を理解できず、文字を“音”に変えるだけならロボットでもできますから(笑)。また、責任を持ってニュースを伝えるという意味で、十分な裏を取ることも大切だと思います。伝聞推定の段階で、あたかも事実のように話してしまっては視聴者を混乱させてしまうからです。そのためには、本物の情報かどうかを見極められるだけの教養が必要になってくる。アナウンス技術を磨くのはもちろん、あらゆる分野の本を読んだり、博物館や美術館に行って良質なものに触れて、自己研鑽(けんさん)を続けなければいけないと思います。

東日本大震災以降は、報道の最前線にいるアナウンサーのあり方も変化したと感じます。

私が在籍していたTBSでも、震災直後から被災地の放送局を含めて、災害報道のあり方を繰り返し話し合いました。昔なら、アナウンサーがパニックを起こしてしまうと視聴者も混乱してしまうからと、何があっても落ち着いて話すことが基本でしたが、あまりに冷静すぎると危機感が伝わらない恐れもあります。視聴者に避難を呼びかけるためにはどうすればいいのか。アナウンサーの判断力や力量、人間力が試されていると思いますし、より良い放送とは何なのかと、常に考えなければいけない仕事だと改めて感じました。実際、東日本大震災のときに金庫を取りに家に戻ろうとした人がアナウンサーの避難を呼びかける放送を聴いて、津波から逃げることができた。そう考えると、アナウンサーは自分の声と言葉で人の命を救える仕事なんですね。そのくらいの責任感のある仕事なのだと全国のアナウンサーのみなさんには自覚していただきたいし、視聴者のみなさんには、厳しくも温かい目で、アナウンサーを見守っていただきたいと思っています。


吉川 美代子 さん

フリーアナウンサー/1954年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、TBSに入社。「ニュースコープ」「ニュースの森」「CBSドキュメント」など多くの報道番組や、「ウォッチ!」「朝ズバッ!」などの情報番組で活躍。TBSアナウンススクール校長を12年間務めた。2014年5月にTBSを定年退職し、現在は「みんなのニュース」(フジテレビ)などへのレギュラー出演のほか、アナウンサーのレベル向上のため、放送局のアナウンサー研修などで後進の指導に当たっている。近著に『愛される話し方』(朝日新書)。


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