ウイスキーが誕生してから1000年近く経ち、いま、ウイスキーは世界的なブーム。日本でも、ハイボールのリバイバル人気や、ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝氏をモデルにしたNHK朝の連続テレビ小説「マッサン」効果で、男女を問わずウイスキーを楽しむ人は増えています。そこで今回は、“世界のウイスキーライター5人”にも選ばれた、ウイスキー評論家の土屋守さんに、日本のウイスキーの基礎知識や、いまおススメのウイスキーの味わい方を伺いました。
スコットランドの「スコッチウイスキー」、アイルランドの「アイリッシュウイスキー」、アメリカの「アメリカンウイスキー」、カナダの「カナディアンウイスキー」、そして日本の「ジャパニーズウイスキー」ーー世界の5大ウイスキーに名を連ねる日本のウイスキーの特徴や変遷を、まずはおさらいしてみましょう!
日本で初めての本格的なウイスキー蒸留所が設立されたのは、1923年。寿屋(現サントリー)の創業者である鳥井信治郎氏によるもので、彼が蒸留技師として招いたのが、ウイスキーの本場・スコットランドでウイスキー造りを学んだ竹鶴政孝氏です。
スコッチウイスキーをお手本に製造が始まったため、日本のウイスキーはスコッチに似た風味を持ちながらも、日本の風土を封じ込めたような調和のとれたおだやかな味わいが特徴。近年、世界的に和食が脚光を浴びているため、和食に合うジャパニーズウイスキーが日本の食文化の1つとしても注目されています。
日本初のウイスキー蒸溜所として1923年にスタート。桂川、宇治川、木津川の3つの川が合流するため霧が発生し、湿潤な気候が特徴。この地に湧く水は日本の名水百選にも選ばれています。
1973年にサントリー第2の蒸留所として開設。南アルプス・甲斐駒ヶ岳の麓に広がる森の中にあり、広大な敷地内にはバードサンクチュアリが設けられるなど、自然環境を生かした蒸留所となっています。
竹鶴政孝氏が「ウイスキーは北の大地で造るもの」という信念のもと開設した蒸留所です。森や清流、海にも近く、年間を通して冷涼・湿潤。スコットランドに似た気候風土は、竹鶴氏にとって理想郷だったようです。
新川川と広瀬川という2つの川が合流し、水と緑に恵まれた土地に、1969年に開設されました。新川川の水で「ブラックニッカ」の水割りを飲んだ竹鶴氏が、この土地での蒸留所建設を即断したというエピソードも。
霧が発生しやすい湿潤な気候が特徴の富士山麓の御殿場で、1973年に設立。世界的なウイスキーメーカーだったシーグラム社やシーバスブラザーズ社のノウハウが提供され、同社のウイスキー造りのベースとなっています。
池田内閣によって所得倍増計画が発表され、高度経済成長が進んだことを背景に、歩調を合わせるように、ウイスキーが日本人に好まれるようになりました。洋酒がステイタスのひとつと捉えられたことが理由として挙げられます。
代表銘柄:ブラックニッカ
高級洋酒のイメージが先行していたウイスキーを居酒屋や寿司屋、和食屋でも飲めるようにしようと、サントリーが「二本箸作戦」を決行。あらゆる和食の飲食業態に営業をかけ、ウイスキーが和食に合うことを水割りとともにアピールし、見事成功しました。
代表銘柄:サントリー オールド
バブル景気の浮かれた時代の雰囲気に、バーボンなどのアメリカンウイスキーのスタイルがマッチ。それまでのジャパニーズウイスキーを水割りで飲むスタイルから変わり、バーボンをストレートで飲むのが流行しました。
代表銘柄:I.W.ハーパー、ワイルドターキー、ジャックダニエル
インドや中国などの新興国が経済成長を遂げると、ステイタスからスコッチがブームに。それが火付け役となり、世界的にウイスキーブームが起きます。日本でも、ハイボールによるプロモーションがヒットしました。
代表銘柄:サントリー角瓶
ハイボールでウイスキーを飲むことが習慣化し、その価値に気づいた人によって、本格的にウイスキーを楽しむ方法として、シングルモルトウイスキーがブームになりつつあります。NHK朝の連続テレビ小説「マッサン」のヒットや、ベンチャーウイスキーの秩父蒸溜所の成功などもブームを下支えしています。
代表銘柄:山崎、白州、余市、グレンフィディック、ザ・グレンリベット、マッカラン
第5次ウイスキーブームに沸く日本。そんないま、ウイスキーをとことん楽しむのなら「シングルモルトが最適」と土屋さん。シングルモルトの味わい方のポイントや最適なおつまみとは?
蒸留所ごとにまったく違う個性や香り・味わいを楽しめるのがシングルモルトの魅力。奥深いシングルモルトを楽しむ入り口として、2つの方法をご紹介します。
-
シングルモルトはチューリップグラスに注いでストレートで飲むのが基本です。まず試しに味わいたいという人は、バーに行くのがオススメです。体調を整え、シングルモルトの豊かな香りを楽しんで、味わえばOK。わからないことはバーテンダーに気軽に聞いてみましょう。お店のセレクトは、シングルモルトが豊富に置いてあるバーを書籍やWEBから選んでください。
-
チューリップグラスとウイスキーを数種類用意し、友人とシェアしながら、味の比較を楽しんでみましょう。シングルモルトにはたくさんの種類があるので、その中から自分はどんなタイプが好みかを知ることができます。ストレートで飲むのが基本ですが、慣れない人は少量のミネラルウォーターで割ってもOK。チェイサーも忘れずに用意しましょう。 ウイスキーのセレクトは、「ピートを焚いているか/いないか」、「バーボン樽か/シェリー樽か」を入り口にしてみるとよいでしょう。それぞれの代表的な銘柄は次のとおりです。
- ■ ピートを焚いているもの : シングルモルト余市/ラフロイグ10年
- ■ ピートを焚いていないもの :シングルモルト山崎/ザ・グレンリベット12年
- ■ バーボン樽で寝かせたもの : 富士山麓シングルモルト18年/グレンモーレンジィ10年
- ■ シェリー樽で寝かせたもの : 山崎シェリーカスク/ザ・マッカラン12年

魚介や肉などあらゆるスモーク製品はウイスキーと好相性。なかでも、スコットランドやノルウェー産のサーモンを使った生に近い本格的なスモークサーモンがおすすめ。ザ・グレンリベットなど甘みのあるタイプと合わせてみてください。

チーズにはワインというイメージがありますが、ウイスキーも相性では負けていません。スティルトンなどの青かびチーズにザ・マッカランなどのシェリー樽系、シェーブルチーズにブレンデッドのハイボール、チェダーチーズに水割りなど、自分なりに好相性のチーズとウイスキーを探してみるのも楽しみです。

こってりと濃厚なバニラアイスクリームに本格的なシングルモルトをたらして食べると、2つのおいしさが絶妙にマッチ。双方からバニラの香りが漂い、お互いに溶け合う瞬間がたまりません。ザ・マッカランのようなシェリー樽を使ったタイプと、ボウモアのようなピートを焚いたタイプでは味わいが異なりますが、いずれ劣らぬおいしさです。

奥深いウイスキーの世界。日本はもちろん、世界のウイスキーをより深く楽しむなら、歴史や原料、製法から飲み方、うんちくまで、幅広い知識を身につけることができる「ウイスキー検定」に挑戦してみては? ウイスキーの知識や文化を普及するために、土屋さんが中心となってスタートした世界初の検定です。詳しくは公式サイトをご確認ください!
ウイスキー検定公式ホームページ https://www.kentei-uketsuke.com/whisky/

土屋 守 さん/ウイスキー評論家
日本語雑誌の編集長としてイギリスに滞在中、取材先のスコットランドでシングルモルトにのめり込み、ウイスキーライターに。1998年ハイランド・ディスティラーズ社より「世界のウイスキーライター5人」の1人として選ばれる。日本初のウイスキー専門誌『Whisky World』の編集長として活躍中。スコッチ文化研究所を設立し、NHK朝の連続テレビ小説「マッサン」のウイスキー考証の監修を務めるなど、ウイスキー文化を広めている。

-
今宵もウイスキー
太田 和彦 (編)[著]
昨年、そして今年はウイスキーに新たな注目が集まった年だった。何気なく酒場で飲んでいる「水割り」。しかしその酒にはいくつものドラマがある。この酒に惚れたり、溺れて苦しんだ作家たちも枚挙にいとまがない。今こそウイスキーを読みたい。
この琥珀色の酒を文人たちはいかに愛したのか。日本全国を巡った「居酒屋の達人」太田和彦が厳選した味わい深い17の随筆&短編。※ご応募には、MyLinkログインと、boox for NTTグループカードの会員登録が必要です。MyLinkにご登録のないNTTグループカード会員様はこちらからご登録ください。