消費税のさらなる引き上げが予定されているいま、厳しい時代を生き抜く知恵として、知っておきたいのが節税対策です。所得税や財産税の仕組みは複雑に思えますが、2015年の相続税・贈与税の税制改正で、より多くの人にとって関わりのある話題になっています。そこで、今回はファイナンシャルプランナーの横山光昭さんに、知って得する節税について聞きました。
会社で年末調整を行っている方でも、確定申告を行えば納め過ぎた所得税の還付金を受け取れるケースがあります。自分に当てはまるものがないかチェックしてみましょう!
そもそも「確定申告」は、収入が2,000万円を超える人、給料を2カ所以上から受け取っている人、個人事業主は必ず行いますが、会社員も確定申告を行うことで、税金が戻ってくるケースがあります。例えば、別居暮らしの両親に仕送りしているのに「扶養控除」を受けていない場合、年間10万円以上の医療費がかかっているのに医療費控除を受けていなかった場合などがそれにあたります。こうした「還付申告」は、会社員なら過去5年間にさかのぼって行えますし、原則として決められている提出期間(2月16日~3月15日)を避けて、1年中行うことも可能です。
上記の通り、1年間に払った医療費が10万円(※)以上の場合、確定申告を行えば「医療費控除」の対象となります。医療費の対象になるのは治療代や処方箋代だけと思っている人が少なくないようですが、市販薬でも「ケガや病気などの治療のため」に買った医薬品であればOKです(医薬部外品は対象外)。薬だけでなく、病院や薬局に行くまでにかかった交通費も申告できるほか、病院で禁煙治療やED治療、不妊治療を受けた場合も医療費控除の対象となります。
このほか、医療機関が治療のためと認めた上で、施設や病状が条件を満たしていれば、スポーツ施設の利用や温泉、マッサージなどの利用料も医療費控除として認められます。自分1人で年間10万円以上掛からなかったとしても、扶養している親族がいればその分を合算することができるので、家族の医療費は必ず把握しておきましょう。
※総所得金額が200万円未満の場合は、総所得金額の5%相当額
「扶養控除」は、納税者が妻以外の16歳以上の家族を扶養している場合に適用されるもの。一般的には1人当たり38万円の控除が受けられ、老齢など年齢によって控除額は異なります。扶養親族の範囲は意外と広く、6親等以内の血族と3親等以内の婚族と定められているので、自分の扶養の範囲を確認してみてください。
また、配偶者を扶養している場合には、配偶者控除が受けられます。配偶者控除というと妻が夫の扶養に入るものと思いがちですが、妻が働いていて夫が失業中のときは、失業保険は所得とはみなされないため、夫は妻の扶養にすることができます。
子どもの扶養控除については、共働きで子どもが1人の場合は夫婦で収入の多い方の扶養に入れたほうが、子どもが2人以上の場合は別々の扶養にしたほうが、節税になるケースが多くなっています。
会社員でも簡単に節税できて、特産品までもらえると人気なのが「ふるさと納税」です。これは、自分の生まれ故郷や応援したい自治体などに2,000円を超える寄付を行えば、住民税と所得税から一定額の控除が受けられる仕組み。例えば2万円を寄付すれば1万8,000円分の税金が戻ってくるうえ、寄付金や自治体によってはカニや牛肉、お米などの特産品をゲットできます。
ふるさと納税は寄付する自治体が生まれ故郷でなくてもよく、ほとんどの自治体で寄付したお金の使い道を指定できるのも魅力です。例えば、災害復興や地域産業の振興、自然環境の保全などを使い道として指定し、地域を支えることができるのです。総務省のホームページにふるさと納税に関する情報が記載されているので、興味のある人はチェックしてみましょう。
経費が認められるのは自営業者だけと思われがちですが、会社員でも経費が認められる制度として「特定支出控除」があります。この制度は、以前まで通勤費や転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費のみに認められてきましたが、2013年の税制改正で図書費や衣類費、交際費などが追加されました。これにより、仕事で必要なスーツ代や書籍代、取引先との接待費などが経費として認められることに。領収書や銀行振込の払い込み受取書を、会社宛ではなく自分の名前でもらい、それらを勤務先(給与支払者)に経費として認めてもらった証明書を用意すればOKです。
ローンを組んで住宅を購入する予定がある人にぜひ活用してもらいたいのが「住宅ローン控除」。住宅ローンを組んだ1年目に確定申告を必ず行う必要がありますが、住宅の所得などにかかるローン等の年末残高の1%が、10年間所得から差し引かれるんです。2014年4月の改正以降、住宅ローン控除の控除額は倍になっており、例えば年収400万円で所得税が約20万円の会社員の場合、ローンの額によっては所得税がゼロになることもあります。
夫婦共働きで2人の収入に大きな差がない場合は、住宅購入の際に共同名義にしておけば、夫婦ともに住宅ローン控除の恩恵を受けられることもあります。さらに、国土交通省が認定した「長期優良住宅」を購入すると、一般住宅よりもさらなる優遇措置を受けられるので、住宅購入を考えている方は検討してみてはいかがでしょうか。
2015年から相続税と贈与税の税制が改正され、相続をめぐる状況は大きく変化します。「親はまだ元気だから」と問題を先送りにせず、賢く「相続対策」を行いましょう。
2015年から相続税の対象となる財産額が引き下げられ、税率も細分化されることから、多くの人が相続税の問題を抱えることが予想されます。改正後の相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となり、例えば相続人が配偶者と子ども2人の場合、4,800万円以上の財産を相続する人は課税対象となるのです。税制改正で、これまでは100人のうち4人程度だった相続税の課税対象者が、2倍近くに拡大するともいわれています。
一方、贈与税は、子どもや孫への教育資金の贈与に特例が新設され、実質軽減となりましたが、それ以外の贈与は最高税率が55%に引き上げられ、税率は以前の6段階から8段階に区分されることになりました。
相続対策では相続財産を減らすことがポイントですが、効果的なのが生前贈与です。年間110万円までなら贈与税の非課税枠が設けられているので、非課税枠内の贈与であれば贈与税はかからず、相続財産を減らすことができます。ただし、相続財産は早い時期から定期的に減らすこと。相続される人が亡くなる3年以内に生前贈与した財産には、相続財産に加算して相続税が課されるからです。また、同じ金額の贈与を繰り返すと、まとまった財産を分割して贈与したものとみなされ、一括して贈与税がかかる恐れがあります。そのため、贈与の意思決定があったことを証明する「贈与契約書」を毎年取り交わし、現金の贈与では相続する人の預金口座に振り込み、贈与の証拠を残しておくことも鉄則です。
税制改正により、子どもや孫への教育資金贈与に非課税制度が設けられました。これにより、30歳未満の子ども、または孫への教育資金を目的にした贈与は非課税になります。教育資金の上限は、学校の入学金や授業料などに充てる支出が1人当たり1,500万円までと、塾などへの支出が500万円まで。信託銀行などの金融機関に子どもや孫の名義で専用の口座を開設し、「教育資金非課税申告書」を提出する必要があることを覚えておきましょう。なお、お金を引き出す場合は、教育資金を支払った分の領収書が必要なほか、子どもや孫が30歳になった時点で使いきれなかった教育資金は、相続税より高い通常の贈与税が掛かります。
NISA(少額投資非課税制度)とは、年間100万円までの株式や投資信託購入分の利益を非課税にする制度です。贈与税の非課税分にあたる金額なので、NISAを活用して生前贈与を行えば、贈与税を節税することができます。NISA口座は、国内に住む20歳以上の人ならば1人1口座開設が可能。子どもや孫名義のNISA口座をつくり、そこに親が株式や投資信託の購入資金を1年で100万円を上限に贈与すれば、大きな金額を効率よく贈与することができるのです。
NISAは最大5年間、非課税なので、例えば子どもや孫が5人いれば、最大2,500万円の相続分の財産が減らせ、資産を効率よく運用することもできます。現在、未成年でも口座を開設できる「子ども版NISA」の創設が予定されています。生まれたばかりの孫にも非課税で贈与できることになります。
税金には、会社員の所得税のように給与から天引きされ、支払い方法が選択できないものもありますが、なかには自分で支払い方法を選べるものもあります。例えば、「ふるさと納税」の支払いは、ほとんどの自治体でクレジットカード決済ができるようになっています。現金や現金書留、専用口座へ振り込む方法もありますが、それよりも断然便利なうえ、クレジットカードのポイントが貯まるという点も見逃せません。
また、ふるさと納税だけでなく、自動車税や固定資産税、住民税などの支払いもクレジットカードで決済OKな自治体があり、年々拡充しています。支払義務がある税金ですが、少しでもポイントで還元してお小遣いになれば、それに越したことはありません。自分の住む自治体がどのような仕組みになっているか、あわせてチェックしてみましょう!
賢く節税を行うためには、税制に興味を持って情報収集を行うことが何よりも大切です。確定申告時の節税は、今回紹介した以外にも、さまざまな控除がある一方で、教育費や住宅購入費などの援助を親から受ける場合、税が発生してしまうケースもあるためです。いまはインターネットで簡単に確定申告を行える時代ですから、確定申告が面倒だからと行動に移さないのはもったいない。少しでも節税できる可能性があれば、きちんと行動してみることをおすすめします。
※本記事は、2015年1月現在の税法に基づいてまとめたものです。
税についての詳しい内容は、最寄りの税務署などの相談窓口をご利用ください。

監修 横山 光昭 さん
家計再生コンサルタント、ファイナンシャルプランナー/お金が苦手な人やお金を貯められない人に向け、独自の家計再生プログラムでお金の使い方をアドバイス。家計相談のほか、書籍やメディア出演も多数。著書『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は累計55万部となるベストセラーに。最新刊『「おひとり」を不安0で生き抜く女子貯金』(祥伝社)も好評発売中。
公式サイト https://www.myfp.jp/index.html
