活用広がる冷凍食品

vol.88

冷たくても食卓を温かに!
活用広がる冷凍食品

外出自粛や緊急事態宣言によって家庭用の冷凍食品の需要が伸びた、なんてニュースも登場した昨今。実は、2020年は日本で冷凍食品の事業がスタートしてから100周年という記念すべき年でもあるんです。非常時に限らず、単身世帯や共働き世帯の増加によって活用が広がる冷凍食品事情を、今月の「Trace」では掘り下げていきます。

凍らせてはみたけれど

19世紀後半、フランスーアルゼンチン間の羊肉の冷凍輸送から発展したという冷凍食品の世界、日本での始まりは“魚”からでした。
日本の冷凍食品のパイオニアは山口県出身の実業家、葛原猪平です。学生時代に国の援助で渡米し、貿易会社に勤めた経験があった葛原は、帰国後は貿易関係の仕事や電気事業に携わり、再び渡米すると冷凍事業を視察。アメリカ人冷凍技師を帯同して、1920年、水産資源に恵まれた北海道の森町で魚の冷凍事業を始めました。宮城県気仙沼市をはじめ、青森、千葉、静岡といった国内から朝鮮半島や台湾、ロシアにも拠点を展開した葛原は、産地と消費地を結ぶ冷凍運搬船を建造するなど、大正時代としては画期的なコールドチェーン(低温流通システム)を整備します。
1923年の関東大震災では、食糧難の被災者に冷凍魚を無償提供して名を広めたものの、家庭用の冷蔵庫は氷で冷やしていたような時代。庶民への普及は難しく、鮮魚店からも「冷凍魚は味が落ちる」と敬遠されていたそう。事業は大正末期の金融パニックで破綻してしまいますが、彼が築いた冷凍技術のノウハウは後世へ大きな影響を与えました。

挑戦むなしく……

日の目を見た戦後の冷食

粗悪品のイメージが拭えなかった冷凍食品は第二次世界大戦後、学校給食が再開されると、短時間の大量調理に適した食材として重宝されるようになります。特に、イカや野菜などを短冊状に切って冷凍したものをフライする「三色スチック(スティック)」は、当時の冷凍食品生産量の大半を占めるほど人気を呼んだそう。
冷凍食品が急速に拡大する契機となったのは、1964年の東京オリンピックです。94の国・地域が参加し、選手村の食堂は延べ23万人が利用、69万食が必要とされた一大イベントに向けて、大量の食材の確保は最優先事項。一気に仕入れてしまうと東京の物価高騰を招く恐れがある一方、毎朝の仕入れとなると交通渋滞で搬送が滞るリスクもあったため、白羽の矢が立ったのが冷凍食品でした。
急速冷凍できる冷凍庫が開発され、食材を下ごしらえして冷凍し、調理する際に解凍して選手村の各食堂に運ぶ体制が整えられると、約2カ月間、300人以上の料理人が選手や関係者の胃袋を支えました。同じ味やクオリティを保つために貯蔵拠点を設けるセントラルキッチン方式がホテルの宴会場や外食チェーンで採用されるようになったのも、東京オリンピックがきっかけ。1970年の大阪万博では、セントラルキッチンでつくられたカレーやお好み焼き、当時は珍しかったドリアやピザなどを提供する食堂も登場しました。

レンジでサクサクが実現!

「日本人の食生活を改善させる」という国のコールドチェーン勧告により、1960年代も後半になると、大手食品メーカー、小売店、家電メーカーが参入して冷凍食品普及に追い風が吹きます。家庭では冷凍室が独立した2ドア式の冷蔵庫が浸透し始め、百貨店など販路が限られていた冷凍食品がスーパーマーケットに新設された“冷凍ショーケース”に並ぶようになりました。コロッケ、ハンバーグ、シュウマイ、餃子、エビフライといった人気メニューが定着するのもこの頃のことです。
1980年代には女性の社会進出や単身世帯の増加を背景に冷凍食品の需要が拡大し、1990年には生産量が100万トンを超え、一人当たりの消費量も1969年の1.2kgから10.8kgと約10倍に増加! ごはんを温めるか、お燗をつくるかくらいしか使い道がなかった電子レンジに対応した商品も登場し、特に1994年に発売された、レンジでチンするだけでサクサクな衣に仕上がるニチレイの冷凍コロッケは“揚げ物=調理が面倒”という常識を覆す大ヒット商品になったのです。

主食にも冷食の波が

冷凍コロッケをはじめ、小腹が空いたときにぴったりの冷凍焼きおにぎり、ブームに乗って支持された冷凍讃岐うどんなど、現在も根強い人気を誇る冷凍食品は数あれど、空前の大ヒットと言われているのが1999年にマルハニチロが発売した冷凍そばめしです。
神戸・新長田の労働者が、お弁当の冷や飯をお好み焼き屋の鉄板で焼きそばと一緒に温めて食べたのが発祥という下町グルメは、1990年代後半に関西限定で別メーカーがいったんは商品化したものの、売れ行きは芳しくなかったそう。マルハニチロのそばめしも、開発陣営から「売れるわけがない」という声が出ていたようですが、地域限定で発売すると即完売。全国展開を始めると生産が間に合わず、“休売”するほどの事態になったといいます。
そばめしに限らず、ライフスタイルが多様化した2000年代以降は、一食で完結できる一人前の冷凍パスタなど主食系の冷凍食品が増え、特に冷凍チャーハンは“チャーハン戦争”と呼ばれるほど各社がしのぎを削っています。食材の吟味にはじまり、開発担当者が中華料理店で修業して、鉄鍋で炒める技術などを研究するほど。かつて冷凍コロッケのサクサク感が消費者を驚かせたように、中華料理店さながらのパラパラな食感の冷凍チャーハンが食卓を賑わしています。

オーブントースターやレンジで加熱する必要もなく、朝、お弁当箱に入れておくだけでお昼には食べ頃になっている自然解凍の冷凍食品も2000年前後から注目されるようになりました。最近でもお正月に欠かせないおせちや、今川焼きなど和菓子の冷凍食品が登場するなど、その進化は止まりません。

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