ここからは日本でピザがどのように根付いていったかも振り返っていきたいと思います。「Trace」がこれまでに取り上げたハンバーガーやワイン、チーズといった外来の食文化と異なり、ピザならではの普及の仕方が日本にはあった?
日本におけるピザの発祥は諸説あるものの、有力なのが第二次世界大戦中の1944年に、ドイツ人が経営する神戸のレストランで提供されていたという説です。同店にはシチリア島をルーツに持つイタリア人料理人のアントニオが働いていて、“おふくろの味”を再現したピザをふるまっていたのだそう(アントニオはその後、東京・代官山で自身のお店・アントニオをオープン)。
戦争が終わると、ピザは横浜や東京のレストランで楽しめるようになり、1954年には東京・六本木にピザハウス・ニコラスが誕生。日本人の多くがまだチーズなどを口にしたことのない時代、流行の最先端としておしゃれな若者から政治家や文化人に至るまで人気を集めました。また、アメリカと同じように、ピザ黎明期の日本で普及に一役買ったのが冷凍ピザ。東京オリンピックが行われた1964年には、アメリカから冷凍ピザを輸入・販売する業者も創業し、翌年には日本初のピザ工場も東京・目黒にオープンします。ただし、オーブンレンジやトースターが普及していなかった日本では、家庭用というより業務用が主で、世間では “西洋風お好み焼き”なんていわれていた時代もあったようです。
ファミリーレストランや1970年代のファストフードブームの影響で、ピザは外食の必須アイテムとして徐々に浸透します。そして、日本初の宅配ピザが1980年代に誕生したことにより、アメリカさながらのビッグサイズのピザがより身近になりました。
1970年代初頭には、アメリカのピザハットが上陸していたものの、当時は配達ではなく、本場と同じようなレストラン形式がメイン。1985年にドミノ・ピザが上陸し、日本初の宅配ピザチェーンであるピザーラが2年後にスタートしたことが、日本のピザ人気に拍車をかけることになりました。ちなみにこのピザーラ、1982年に公開された映画「E.T.」で主人公たちが食べる宅配ピザに創業者が感銘を受けたことが、事業進出のきっかけだったそう!
また、アメリカの宅配ピザは自動車が使われることが多いものの、日本では3輪タイプのバイクがメジャーですよね。これは日本の交通事情を考慮して、ドミノ・ピザが宅配用にバイクメーカーと共同開発して生まれたものなんです。宅配ピザの登場が、バイクの歴史を変えたといえるかも?
一説では、1974年に東京・大井町で開店したオリガノというお店が、日本の宅配ピザの元祖ともいわれています。このお店、下町風情がまだまだ残る時代にスタートし、知る人ぞ知る食べ物だったピザを広めようと、中華屋の出前で使う“岡持ち”でピザの配達を始めたそうです。
小腹が空いたとき、ついつい食べたくなってしまうのがピザトースト。これは喫茶店文化が進化し続けてきた日本だからこそ生まれたピザ。東京・有楽町にある喫茶店、珈琲館 紅鹿舎で「気軽に食べられるように」と昭和30年代に考案されたそうです。
そんなピザトーストをはじめ、冷凍ピザや宅配ピザのように、どちらかといえばアメリカンピザ寄りで、本場さながらのピザがなかなか普及しなかった日本ですが、近年は原点回帰の機運も高まり、2006年には真のナポリピッツァ協会日本支部が設立されたこともあって、本場の味が楽しめるピッツェリアも続々登場しています。
1984年にナポリで設立された協会で、目的はナポリのピザを守ることと、それをすべてのピザを評価する世界的な基準にすること。世界中のピッツェリアに会員証を発行する専門家団体でもあり、生地に用いる食材や工程も厳密に定められています。同協会が認める真のナポリピッツァとは、マルゲリータ、マリナーラ、そしてマルゲリータ・エクストラ(トマト、生のチェリートマト、モッツァレラ、オイル、バジル)の3種類のみ!
さて、ここからはピザにまつわるトリビアを。シンプルなトッピングが身上のイタリア人の中には、多彩な食材がトッピングされたアメリカンピザや日本のピザに複雑な感情を抱く人も少なくないようです。日本人がフルーツなどをネタにした海外の“スシ”を見て驚いてしまうことに似ているかもしれませんね。
特にアメリカでは、型破りなピザが次々に誕生しました。例えば、中西部の大都市・シカゴが発祥のシカゴピザ。ディープディッシュスタイルピザやスタッフドピザとも呼ばれるこのピザは、タルトのような分厚さが特徴。シカゴでもイタリア系移民によるスタンダードなピザが食べられていましたが、テキサス生まれのアイク・シーウェルが1943年に創業したレストランで、「アメリカ人は分厚く食べ応えのあるピザを好むはず!」と、生地を思いきり厚くして、深めの型に入れて焼くレシピが考案されたのだそう。ナポリのピザが1分ほどで焼きあがるのに対して、こちらは1時間以上かけてオーブンでじっくり焼きあげるスタイル。ボリューム満点で州外からも評判を呼び、シカゴ名物として広く知られることになったのです。
酵母を使わず生地を発酵させないピザで、パリパリの食感が特徴。
こちらは“パイ”と呼んでしまっているように、シカゴピザのような分厚さが売り。食べきれなかった生地はハチミツをつけてデザートにすることもあるそう。
バーベキューチキンとレッドオニオン、ゴーダチーズをトッピングしたピザ。カリフォルニアで誕生したピザです。
常夏の楽園・ハワイで生まれたピザ。南国らしくパイナップルを使い、ベーコンもトッピングするのがスタンダードだとか。
1980年代にはトリュフやスモークサーモン、キャビアなどを加えた、グルメが喜びそうなピザや、オーガニックな食材を使ったメニューも登場。日本でもマヨネーズやポテトなどをトッピングした宅配ピザが人気ですが、ピザ大国のアメリカには敵わない?
最後は世界が驚くピザをご紹介。「世界で一番長いピザ」は、2017年6月にアメリカ・カリフォルニア州のオートクラブ・スピードウェイで、多数のピザ職人やオーブンメーカーらが協力してつくられました。その全長はなんと2.13キロメートル! それまでの世界記録だったイタリア・ナポリの1.85キロメートルを大きく上回り、世界最長としてギネスにも登録されています。一方、一番大きいピザとなると、2012年にイタリア・ローマで誕生した1261.65平方メートルのピザ。こちらは直径が40メートルあり、小麦粉は約9トン、チーズとソースはそれぞれ約4トンも使われたそう……。
世界でもっとも高価なピザのひとつが、スコットランドの最大都市・グラスゴーのレストランで2006年に考案されたもの。金箔、高級コニャックに漬けたロブスター、シャンパンに浸したキャビア、スコットランド産のスモークサーモン、そして鹿肉をトッピングしたもので、オークションサイトのebayに“出品”され、2000ポンドで落札されました。利益は慈善団体に寄付されたそうですが、ナポリのピザ職人はどんな気持ちでこのニュースを眺めたのでしょう?
2016年にはニュージーランドのドミノ・ピザが一部顧客に向けて、ドローンによるピザの配達を開始、2017年末にはピザーラがAIを搭載した自動運転車を使った配達を一部地域でスタートしたというニュースも登場しました。歴史を見てみると、冷凍技術や宅配用バイクの開発などと、ピザとテクノロジーの親和性は高いのかもしれませんね。ほかほかで焼き立てのピザが、空から届く日も近い!?
参考文献(順不同)
キャロル・ヘルストスキー『「食」の図書館 ピザの歴史』(原書房)/21世紀研究会編『食の世界地図』(文春新書)/『dancyu 1997年7月号』(プレジデント社)/『別冊Lightning ピザの本』(エイ出版社)/『POPEYE 2015年9月号』(マガジンハウス)/ピザ協議会(ホームページ)/ITmedia(同)/AFPBB News(同) 等
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