暖かきダウンジャケット

vol.106

寒い季節も快適に
暖かきダウンジャケット

すっかり冬の定番アウターとなったダウンジャケット。その誕生は釣り好きの生死に関わるアクシデントがきっかけだったといいます。今回の「Trace」ではそんなダウンジャケットの変遷からいまさら聞きづらい疑問についても迫ってみました!

生死を左右するアクシデントがきっかけ

ダウンジャケットが誕生したのは今から80年以上も前のこと。アメリカのアウトドアブランド「Eddie Bauer(エディー・バウアー)」を創業したエディー・バウアーが1935年の真冬、オリンピック半島(アメリカ北西部ワシントン州西端の半島)へ釣りに出かけた際に、雨でびしょ濡れになったウールセーターを着ていたせいで低体温症となり一命を取り留めた出来事がきっかけでした。
当時のアウトドア用防寒着といえばウールのパンツや下着、マッキーノコートが主流で、濡れると重くなるものばかり。そこでバウアーは暖かさと軽さを両立したアウターの開発に着手します。開発のヒントになったのは「厳寒のシベリアでは防寒のためにダウン(羽毛)を服に詰め込んでいた」という叔父の話。しかし、できあがった試作品はジャケット内に詰めたダウンが下に偏ってしまって使いものになりません。試行錯誤の末にダイヤモンド型のキルティングを設けることでダウンを均等にジャケット内に固定するアイデアにたどりつき、初のダウンジャケット「ブリザードプルーフ」が誕生しました。
翌年には改良が加えられて名称も「スカイライナー」と改められ、アメリカで初めて特許を取得したダウンジャケットにもなりました。「地球上でもっとも暖かい」と謳われたジャケットは、現在もアップデートが重ねられています。

いまさら聞きづらいダウンのあれこれ

スカイライナーの登場以降、登山家にも評判が広まり、アウトドアに欠かせないアイテムとなったダウンジャケット。ストリートファッションに取り入れられるようになるのは1980年代とされていますが、その変遷を辿る前に、そもそもなぜダウンジャケットは暖かく感じるのか、ダウンとフェザーは何が違うのか、いまさら聞きづらい疑問をおさらいしてみました。

ダウンはなぜ暖かい?

ウールコートやレザージャケット、ファーコートと比べても、ダウンジャケットの暖かさは圧倒的といっていいほどですが、その暖かさの秘密はダウンがたくさんの「空気」を溜め込んでくれているから。そもそも「ダウン」とは、水鳥の胸に生えている羽軸がほとんどなく繊維状で柔らかい綿羽のことで、たんぽぽの綿毛のようにボール状であるため「ダウンボール」とも呼ばれています。
ダウンは羽枝が放射状に伸びて絡み合わないことから空気を大量に溜め込む性質があり、その空気の層が冷たい外気の進入を防ぎ、体温が外に放出されるのを防ぐ「断熱材」の役割を果たしてくれるというわけなんです。ちなみに保温性を高めるためには、着用の際に地肌とダウンジャケットとの間に距離をあまりつくらないのがポイント。ついつい重ね着や厚着をしたくなってしまいますが、ダウンジャケットの場合はかえって寒く感じてしまうこともあるので、薄着を意識することをおすすめします。

ダウンとフェザーは何が違う?

ダウンジャケットを愛用している人なら「ダウン○%・フェザー(あるいは中綿)○%」というタグ表示を見たことがあると思いますが、ダウンとフェザーではどんな違いがあるのでしょう。
保温性が高いダウンは、吸湿性や放湿性にも優れ、衣服内部の湿度を調節する機能もあります。ただし、1羽の水鳥からとれるダウンの量は5〜10グラムととても貴重で、さらにダウンだけでは柔らかすぎてかたちを維持できないために、水鳥の全身を覆っている羽軸のある羽根=フェザーを適量混ぜ合わせているんです。
フェザーはダウンより保温性こそ劣るものの、通気性や弾力性が高いのが特徴です。ダウンとフェザーの割合はさまざまで、用途や価格に応じた調整がなされていますが、暖かさや軽さ、着心地の良さを求めるなら、ダウン含有量が多いもの(一般的にダウン70~90%、フェザー30~10%の割合)を選ぶと良いようです。
ダウンやフェザー以外の素材に、ポリエステルなどの化学繊維で人工的につくられた「中綿」があります。ダウンやフェザーより保温性は低いとされるものの、水に強い、洗濯がしやすい、比較的安価といったメリットがあり、近年は高品質な素材も開発されています。

フィルパワーとは?

ダウンジャケットの説明で見かける「○フィルパワー」という表示。このフィルパワー(FP)とは、一定の条件下で1オンス(約28.4g)の羽毛を圧縮した際の膨らみ具合を表した単位で、たとえば600FPなら1オンスの羽毛が600立方インチまで膨らむことを表しています。
数値が大きければ大きいほどたくさんの空気を含むことができるので保温性が高くなり、反対にダウンは少なくて済むので軽量に仕上がります。一般的に500FP以下は低品質、600FP以上は良質、700FP以上は高品質という大まかな基準はあるものの、国によって測定基準に違いがあったり、同じダウンジャケットで数値が異なることもあったりするため、あくまで目安と考えておくのがよいでしょう。

羽毛が抜けても大丈夫?

ダウンジャケットを着ていると羽毛が飛び出してきてしまった……。誰でもこんな経験を持っているのではないでしょうか。羽毛はとても小さいのに、どうして飛び出してきてしまうのか。ステッチの微細な針穴から抜け出てきたり、羽軸のあるフェザーが生地を突き抜いて出てしまったりするケースが原因として考えられますが、羽毛をジャケットに詰める方法自体が影響していることもあります。

[パックイン]

ダウンパックと呼ばれる不織布の袋に羽毛を詰め、それをジャケットの表地と裏地の間に入れ込む方法。羽毛は吹き出しにくいものの、パックの分だけ重くなり、デザイン的な制約も生まれます。

[ノンパック]

ダウンパックを用いず、生地の内側に直接羽毛を詰める方法。軽量でデザインの自由度も高くなる一方、羽毛が出てきやすいのが弱点です。

近年は羽毛が吹き出しにくい密度の高い素材が増え、ノンパックの製品でも羽根抜けは軽減されているようです。羽毛がたびたび出てくると「このまま劣化してしまわないか……」と心配になりますが、薄いダウンジャケットでも見た目以上に羽毛は詰まっているもの。品質にはほとんど影響はないのでご安心を。

ファッションアイテムとして浸透

ダウンジャケットの変遷に話題を戻しましょう。山岳用品や極寒地でのハードワーカーのためのものという印象の強かったダウンジャケットは、1980年代中頃になるとフランスやイタリアなどヨーロッパを中心にファッションアイテムとして認知されるようになります。その立役者のひとつがフランスの「MONCLER(モンクレール)」です。
1952年に創業したモンクレールは当初から労働者や登山家向けのダウンジャケットを手がけ、1968年のグルノーブル冬季オリンピックではフランスのダウンヒルスキーチームのオフィシャルサプライヤーとなったことで多くの人々に知られます。その後、1980年代にシャンタル・トーマスがデザイナーに就任すると、極限の状況に対応できる高い技術と女性を美しく見せるデザイン性が融合したダウンジャケットをリリースし、ファッション感度の高い人たちの注目を集めました。
日本ではDCブランドブームからストリート系ファッションへとトレンドが移り変わる1990年代にダウンジャケットが浸透し始めたといわれています。特に「THE NORTH FACE」が1992年にリリースした「ヌプシジャケット」は高い品質と機能美から若者を中心に大ブレイクし、一躍冬の定番アイテムとなりました。
2000年代に入るとモンクレールをはじめ、カナダ発の「CANADA GOOSE(カナダグース)」のような10万円超えの高級ダウンジャケットの人気が高まります。大阪のスポーツウェアメーカー「デサント」が2010年バンクーバー冬季オリンピックの日本選手団のために開発したダウンジャケットは、ダウンの大敵である水濡れを防ぐためにステッチをなくした熱接着ノンキルト加工などを施し、保温性だけでなく防水性にも優れたもので、岩手県奥州市(旧水沢市)の水沢工場で生産されたことから「水沢ダウン」と呼ばれ、高級国産ダウンジャケットとして熱い支持を得ています。

アウターから中間着へ。動物倫理や環境への配慮も

ハイスペックな高級ダウンが定番となった一方で、UL(ウルトラライト/装備をできる限り軽量化するアウトドアカルチャー)やトレイルランといったアウトドアアクティビティの流行で、薄手でも暖かく、コンパクトに収納できる機能性の高いダウンジャケットもここ数年のトレンドのひとつです。なかでもすっかり市民権を得た感があるのが、日本のアウトドアブランド「モンベル(mont-bell)」のインナーダウンでしょう。
アウターとして使われていたダウンジャケットを「中間着」として活用することを広めた一着で、1990年代後半にファスナータイプのインナーダウンがリリースされると、襟付きのプルオーバーベストやスナップボタンタイプのジャケットも登場。特に2011年から販売されているカーディガン風のジャケットは薄手かつ軽量で、重ね着しやすいようにノーカラーのデザインを採用しているため、秋冬のコーディネートに取り入れやすく“オフィスで羽織れるダウン”としても愛用されています。
また、国連の定める持続可能な開発目標、SDGsへの取り組みがあらゆる場面で進められている今、環境に配慮したリサイクルダウンジャケットの話題も目にするようになりました。環境問題や人権について業界をリードするアメリカのアウトドアブランド「Patagonia(パタゴニア)」は動物福祉が保証されたトレーサブル(追跡可能な)ダウンを100%使用し、中古製品から回収したダウンを再利用したリサイクルダウンを使用した製品を拡充させています。カジュアル衣料品の「ユニクロ」も、使い古された60万着以上のダウン商品を回収し、リサイクルダウンジャケットをつくる取り組みをスタートしています。
不要なダウン製品の再利用はゴミの削減や二酸化炭素の排出量抑制に効果があり、新たな雇用創出やダウンの安定供給にもつながっているといいます。高度な洗浄過程で“強いダウン”だけが残るため、リサイクルダウンの品質が従来のバージンダウンをしのぐこともあるのだそうです。今あるダウン製品を大切に使い続けることが第一ですが、もし不要なものが出てきたらリサイクルの道があることを忘れないでおきたいですね。

シーズン終わりの秘密兵器はテニスボール!

フワフワな着心地のせいか「ダウンジャケットの洗濯はプロ(クリーニング店)に任せるのが良い」と思っている人もいるかもしれませんが、最近はダウンジャケットを家庭で洗うことも珍しくなくなりました。汗や皮脂、ほこりなどの汚れをそのままにしておくとダウンの“かさ”が減って保温性が落ちてしまうため、1シーズンに1回くらいの定期的なお手入れはしておきたいところです。そこで、家庭での洗濯時のちょっとしたコツを最後にご紹介します。
そのコツとは乾燥時にテニスボールを使うというもの。自然乾燥をしたい場合は直射日光を避け、湿度の少ない暖かい場所にタオルを広げて平干しするのがおすすめですが、乾燥機を使いたい場合はダウンジャケットと一緒にテニスボールを2つほど入れると、乾燥機の中でテニスボールが飛び跳ね、ダウンの偏りを防いでくれるんです。寒さはまだまだ続きますし、衣替えは気の早い話ですが、ダウンを片付ける季節になったらぜひ思い出してください。なお、ダウン製品によっては洗濯をおすすめできないものもありますから、洗濯表示の確認は必ず忘れないようにしましょう。

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