vol.7 奥深き、入浴剤の世界

奥深き、入浴剤の世界

今年もあと僅か。少しずつ冬の足音が近づいてきました。温泉にでも行ってゆっくりしたいものですが、忙しいとなかなかそうもいきません。そこで重宝するのが、家で温泉気分を楽しめる入浴剤。なんでも、現在全国の7割以上の家庭に何かしらの入浴剤が置かれているとか。これだけ身近にも関わらず、歴史や製造方法はあまり知られていません。そこで、今回は日本浴用剤工業会の石川さん(株式会社バスクリン)に話を伺ってきました。

5つの薬木と1つの薬草、日本最古の入浴剤とは?

日本では古来より、植物の葉、実、根などをお風呂に入れ、薬効成分を身体に取り入れる薬湯という風習がありました。現在でも、5月の「菖蒲湯」や12月の「ゆず湯」などに、その風習は残っています。このような土壌があったこともあり、室町時代には既に「五木一草湯」というものが存在し、桑、えんじゅ、柳、桃、梶の5種類の薬木と、よもぎまたはスイカズラなどの薬草を混ぜ合わせ、お風呂に入れていた記録があります。江戸時代の医師である貝原益軒(かいばらえきけん)の大和本草には「傷食、食滞、泄瀉(せっしゃ)、腹痛等の病に温湯に浴す、気めぐりて早く癒ゆ、薬を用ふるにまされり」とお風呂の効果が記載されている程です。

入浴剤誕生のきっかけは薬の“残りカス”!?

1897年には日本初となる入浴剤(銭湯向け)「くすり湯 浴剤 中将湯」が津村順天堂(現・バスクリン)より発売されました。このきっかけになったのが、津村順天堂の社員が、当時発売されていた「中将湯」という婦人薬の生産時に出る残りカス(生薬残渣)を「もったいないから」と持って帰ったこと。生薬ということで、これをお風呂に入れて子どもを入浴させたところ、たちまち湿疹が治り、いつもより体がポカポカになったそうです。この効果をウリにして銭湯に販売したところ、たちまち噂が広がり、巷の銭湯から注文が殺到したとか。しかし、冬は温まるけど、夏は暑くて汗が止まらない…という声も多数あがりました。それを受けて、1930年に夏用の入浴剤「芳香浴剤 バスクリン」が発売されることになったのです。当時の値段は150グラムで50銭。銭湯の値段は大人5銭だったことを考えると、相当高価な商品だったようです。

戦後、内風呂の普及により入浴剤人気が爆発

「芳香浴剤 バスクリン」は爽やかな色と香りで大変人気を集めたものの、戦争で生産は一時ストップします。再び入浴剤に注目が集まったのは1960年代から70年代にかけての高度経済成長期のことです。風呂付きの団地に住む人が増え、内風呂が一般に浸透していきました。それに応じて、入浴剤の需要は飛躍的に伸びていったのです。その人気ぶりは凄まじく、生産が追いつかず、急遽工場を新設。1967年にはブリキの容器から紙を使ったスパイラル缶に変更し、自社で容器を作ることになりました。また、健康志向の高まりやリラックス志向により、清涼系などの入浴剤のバリエーションが増えたのもこの時期でした。1975年には夏用の「クールバスクリン」が発売。銭湯から内風呂へとシフトし、家で入浴を楽しむライフスタイルが定着しました。

お風呂に入れてシュワシュワー!バブが開拓した炭酸ガス系入浴剤

これまでの入浴剤は、無機塩類系と呼ばれるもので温浴効果を高めるものがほとんどでした。その常識を覆したのが、1983年に発売された「バブ」(花王)です。現在も売上ランキングでは上位に入るロングセラー商品としてお馴染みです。お湯に入れるとシュワシュワーと泡が立つ様子に心を躍らせた人たちも多いでしょう。「バブ」は炭酸ガスにより、温浴効果を高め、血行を促進し、肩こりや腰痛に効くという点を訴求して人気を集めました。その後、他社も炭酸系入浴剤を市場に次々と投入し、新たな市場が作られていったのです。

温泉の素とともに入浴剤人気に拍車 経済が入浴剤に与える影響とは?

1986年には「旅の宿」(クラシエ)、「日本の名湯」(バスクリン)が続けて市場に投入されました。中でも、一世を風靡したのが、北海道の登別にあるカルルス温泉をモデルにした白濁タイプの「日本の名湯・登別カルルス」。伊丹十三と宮本信子が出演したCMが話題を集め大ヒットとなりました。当時はバブル全盛期ということもあり、入浴剤全体の売上は600億円。この頃から入浴剤がギフトとして扱われるようになり、贈答品としても重宝されたそうです。

■2000年以降の入浴剤の市場規模
2000年以降の入浴剤の市場規模

バブル期は価格が高くてもモノが売れた時代。当時は今に比べて商品単価も高かったこともあり、入浴剤市場の売上高はバブル崩壊とともに減少していきました。その後、430億円前後で安定を続け、寒冬だった2003年を境に売上は約500億円で安定しています。ここ数年は1〜2%の範囲で動いており、大きな動きはありません。しかし、入浴剤を頻繁に使っている人はまだ全家庭の5割とも言われており、まだまだ開拓の余地がありそうです。

今でもダントツ人気!炭酸ガス系入浴剤

炭酸ガス系入浴剤の代表といえば、先にも述べた「バブ」(花王)、「きき湯」(バスクリン)、「バスララ」(白元)などが挙げられます。このタイプは現在でも、もっとも人気があり、年間140億円もの売上を上げています。近年では温浴効果を従来の数倍にした製品も開発され、注目を集めています。ちなみに、炭酸ガス系入浴剤は泡に当たらないと効果がないと勘違いしている人も多いようですが、そんなことはないのでご安心を。

ストップ!入浴離れ。入浴剤は健康作りの切り札に

昨今、若者の入浴離れが叫ばれています。入浴剤が出始めた昭和のはじめ頃は、シャワーなどなく、入浴が当たり前。一方、現在は時間もない、余裕もない…という社会。入浴をシャワーで済ませてしまう若者が多くなっています。また、問題になっているのが、母親になっても子どもを入浴させないこと。入浴習慣がない母親が増えた結果、子どもに入浴の習慣が身に付かなくなっているのです。一説によると、これが原因となり「低体温症」や汗をかけない子どもが増えているとも言われています。入浴は血行促進や新陳代謝を活発にする働きがあります。今後、入浴剤はリラックスや温浴効果だけでなく、健康作りに欠かせないものとして、進化をしていくことでしょう。

ざっと見てきた入浴剤の歴史ですが、懐かしい商品が出てきた!という人も多いのはでないでしょうか。入浴剤は新しいものを作るのに非常に時間がかかるそうで、「バブ」や「温泉系入浴剤」、「きき湯」などのエポックメイキングな商品が出るまでには10年単位の開発期間を要しているそうです。そこで、次のページではそんな血のにじむような開発の影にある裏話や、思わず人に話したくなる入浴剤のトリビアをご紹介します。

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