ペットのはじまり

ペットのはじまり

人間が動物を側に置くようになって以降、その役割は時代によって変化してきました。もともとは番犬や猟犬など生活のパートナーとして飼われていましたが、徐々に権力の象徴という意味が加わり、現在では人間の心を楽しませたり、和ませたりしてくれる存在になっています。果たして、いつから人間は犬や猫、金魚などをペットとして飼いはじめたのでしょうか? そのルーツを辿ります。

長い年月をかけて人間の暮らしに順応してきた

犬や猫、錦鯉、金魚などは元来の野生種に存在しない個体が数多くいます。それは人間が長い年月をかけて自分たちと暮らしやすいように適応させてきたから。最も身近なペットである犬の場合「牧羊犬・牧畜犬」、「愛玩犬」、「使役犬」など、人間の目的に応じて10のグループに分けられています。中には、ひとつの技能に特化した犬もいるほどです。例えば、イタリア原産犬のラゴット・ロマニョーロは「トリュフ探し」に使われていたため、嗅覚が異常に発達しています。かと思えば、「犬の貴族」と呼ばれるマルチーズのように、そもそも「愛玩」を目的にした犬種もいるのです。役割に応じて人間の環境に順応してきたペットですから、私たちが親しみを持つのも当然なんでしょうね。

一緒に暮らしていた形跡アリ縄文人もペットを飼っていた

今やペットの代名詞的存在の犬ですが、記録によると旧石器時代に人間と暮らしていたと思われる犬の骨が見つかっています。古いものは神奈川県の夏島貝塚において発見された約9000年前の物。他の動物と違って、人間とともに埋葬されたり、丁寧に埋葬されていた形跡が見つかっています。狩りを行うなど、家畜として重宝されていたと同時に人間にとって特別な存在だったことがわかります。また、当時の犬は、今でいうキツネや小型の柴犬のような風貌だったことが発掘された骨から分析されています。

権力の象徴? 愛されすぎたペットたち

狩猟の目的で飼育されていた時代を経て、動物は次第に権力の象徴として扱われるようになります。例えば、平安時代には貴族の間で猫を飼うことが大流行。宇多天皇が書いた「寛平御記」には、飼い猫への愛が綴られており、貴人たちも、猫を「手飼いの虎」と呼び、大変可愛がっていたそうです。また、戦国時代にはポルトガル船の来航によって、海外から洋犬が輸入されるようになりました。将軍や大名たちはこぞってポインターやグレイハウンドといった大型犬を飼い、自身の権力誇示に利用していたそうです。

猫に魅せられた天皇と犬を愛しすぎた将軍

歴史上、動物好き故の伝説を残した人物がいます。平安時代に活躍した一条天皇は大の猫好き。清少納言の「枕草子」によると、一条天皇は飼っていた猫の出産の際に、乳母を付け、出産後には「産養い」と呼ばれる祝宴を設けたといいます。しかも、東三条院詮子(=一条天皇の母)、左大臣藤原道長、右大臣藤原顕光といった最上級の人物によって執り行なわれたそうです。
また、江戸幕府第5代将軍・徳川綱吉は「犬公方」と呼ばれるほどの犬好き。動物の殺生を禁じる「生類哀れみの令」は犬の保護が主な目的でした。現に犬の厚遇ぶりは相当なもので、東京ドーム20個分の広さの「中野犬小屋」を建設し、10万匹以上の犬一匹ずつに「白米3合、味噌、干しイワシ」を毎日与えていたそうです。奇しくも、東北地方では大飢饉が起こっていたタイミング。人間より犬を優先する様子に、世間からは多くの非難がありました。

江戸から平成! ブームになった動物たち!
江戸時代の金魚ブーム! きっかけは飼育書

寛延元年(1748年)に出版された金魚の飼育書「金魚養玩草/安達喜之」をきっかけに、金魚が大流行します。しかし、当時はまだ希少だったため、値段が高く、庶民にとっては高嶺の花でした。江戸中期から後期にかけ、大量生産が可能になったため、庶民にも金魚を飼う風習が広がっていきました。縁日でお馴染みの金魚すくいもこの時期に誕生したそうです。

明治時代に突如起こったうさぎブーム

明治維新直後、日本には外国から多くのものが輸入されます。中でもうさぎは簡単に飼育ができる上に食用にもなると大人気に。庶民間でうさぎの売買が止まらず、明治5年(1872年)には月1円のウサギ税が課せられたほどでした。当時、公務員の初任給は月8〜9円。うさぎ税が、いかに高額だったかが分かります。

昭和に巻き起こった熱帯魚ブーム

昭和元年(1926年)、日本橋三越の高山植物売場と銀座千疋屋にて熱帯魚の販売がスタート。ソードテール、ムーンフィッシュ=プラティ、グッピーなどが販売され、熱帯魚愛好家が急増しました。その後、1960年初頭、1990年代と数年おきにブームが訪れており、現在でも根強い人気を誇ります。

可愛らしい鳴き声が魅力! 小鳥ブーム到来

昭和40〜50年代には、小鳥ブームが起こります。手乗り文鳥や手乗りインコなどが大流行。鳴き声が可愛らしく、育てやすいという理由から人気を集めました。巷でも小鳥を売るお店が出始め、この頃から和鳥の輸出も積極的に行われるようになりました。

小型犬人気の元祖! フワフワの被毛のスピッツ

白く、フワッとした被毛のスピッツは番犬にぴったりの小型犬として大流行しました。ピーク時には日本で登録された犬の約4割を占めたほどです。しかし、よく吠える習性が仇となり、次第に「神経質でキャンキャン吠えるうるさい犬」というイメージが付き、人気は衰えていきました。

お座敷犬の御三家! マルチーズ

昭和43年(1968年)から昭和59年(1984年)までの16年間に渡り、登録犬数第一位を独占していたマルチーズ。ポメラニアン・ヨークシャーテリアと共に「御三家」と呼ばれていました。お座敷犬ブームの火付け役としても知られて、「抱き犬」として人気を集めました。

端整な顔つきが日本人好み!? シベリアンハスキー

平成2年(1990年)前後、漫画「動物のお医者さん」(佐々木倫子)の影響で一気に知名度を上げたシベリアンハスキー。登録犬数でも一気に上位に駆け上がりました。この時期はバブル期の追い風もあって、レトリーバーなどの大型犬が流行しました。

子ども向けアニメでハムスターが好調

人によく慣れて飼いやすいハムスター。最初のブームは昭和63年(1988年)より連載が開始された「ハムスターの研究レポート」。その後、平成12年(2000年)前後にはアニメ「とっとこハム太郎」の人気によってハムスターが再ブレイクを果たしました。

犬のように犬種別でブームが起こる動物もいれば、マスコミの影響で一時的にブームになる動物もいます。ペットとして最も登録数が多い犬は、一時バブル期に大型犬が流行ったものの、その後はプードル、ダックスフンド、チワワなどの小型犬が上位を占めています。

現在、日本人の約35%が何かしらのペットを飼っています(一般社団法人ペットフード協会:平成25年全国犬猫飼育実態調査)。そして、多くの方がペットを「生活に喜びを与えてくれるもの」として認識しているそうです。もはやペットは「愛玩動物」という存在を超え、日本社会にとっての「家族」とも言える存在になりつつあります。次ページでは、そんなペットにまつわるトリビアをご紹介します。

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