これまで8時間労働の起源を紐解いてきましたが、ここからは様々なデータを元に労働時間を比較していきましょう。昔と今を比べて、労働時間の増減はどうなっているのか。諸外国と日本の違いは? データからは、どんな真実が見えてくるのでしょうか。
![労働者1人平均年間総実労働時間の推移[年度・確報]](images/p02/img01.jpg)
[年度]※ 資料出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」
〈注意〉1.事業諸規模30人以上 2.数値は、年間平均月間値を12倍し、小数点第1位を四捨五入したものである。
3.所定外労働時間は、総実労働時間から所定内労働時間を引いて求めた。 4.1984年以前の数値は、各月次の数値を合算して求めた。
日本人の労働時間の推移は、1980年代には2000時間を超えていましたが、2010年には1700時間台へと減少。ただし、この数字の裏にはパートタイム労働者の急速な増加という背景もあり、一概に減っているとは断言できません。現実には、長時間労働が問題視されている業種や労働者層と、週40時間労働、パート化、裁量労働化が広がっている層との二極化が進んでいるのです。
- ※ 出典元:データブック国際労働比較2012/独立行政法人 労働政策研究・研修機構
- ※ 資料出所:OECD Database(https://stats.oecd.org/) “Average annual hours 2012年2月現在, OECD(2011.9) Employment Outlook 2011 actually worked per worker”
- ※ データは一国の時系列比較のために作成されており、データ源の違いから特定年の平均年間労働時間水準の各国間比較には適さない。フルタイム労働者、パートタイム労働者を含む。
- 国によって母集団等のデータの取り方に差異があることに留意。
労働政策研究・研修機構の資料によると、2010年時点で世界でもっとも働いている国は韓国でした。唯一2000時間を超えていますが、昨今では徐々に減少傾向にあるようです。気になる日本は5位となりました。イタリアやニュージーランドの方が順位が上なのは、意外な結果です。かつて「働き過ぎ」と言われた日本ですが、今はその状況も落ち着いているようです。見方を変えれば、労働時間の減少とともに経済成長も鈍化している…。その因果関係も気になるところです。
出典:(株)マイナビ マイナビニュース 「勤務時間に関するアンケート」2013年3月 男女500名 (ウェブログイン式)
では、今後私たちは「8時間」という労働時間とどう付き合っていくべきなのでしょうか。これからの働き方について、ライフバランスマネジメント研究所の渡部卓さんに伺いました。
「今後は8時間労働という制度自体が見直されていくでしょう。そもそも、8時間労働制は工場労働者や農作業従事者などの、物理的に拘束されるような仕事をベースにして考えられた制度です。インターネットの出現によって、働き方が多様化している現代から見ると、20世紀の産物とも言えます」
つまり、8時間労働制自体が第一次、第二次産業をベースに考えられたものである以上、産業が多様化し、情報通信産業などが増えてきている今、8時間である必然性が薄れつつあるのです。では、今後はどのような働き方が主流になっていくのでしょうか?
「今、日本でもフレックス制度を導入している企業が増えてきたり、6時間制を導入する企業が出てきています。今後は8時間に縛られない、フリーな働き方が多くなっていくでしょう。また、数年前から『仕事と生活の調和』を考えるワークライフバランスが叫ばれてきました。最近は、これに社会とのつながりをプラスした『ワークライフバランスソーシャル』という考え方が生まれつつあります。東日本大震災以降、いかに自分の時間を社会貢献に使えるか? を考える人が増えたためです。今後は、労働・睡眠・自由それぞれの時間を、少しずつ社会貢献に使えるような社会にしていきたいですね」
今すぐには難しいかもしれません。しかし、この「ワークライフバランスソーシャル」が実現した暁には、もっと豊かで、人を思いやることができる生活が待っているはず。
現在の8時間労働は、多くの先人達が努力の末に勝ち取ってきた条件。当時の彼らから見たら、現代の労働環境は理想だったのではないでしょうか。8時間労働が主流になってから100年あまり。その時間や条件が大きく変わることはありませんでした。しかし、今8時間労働に捉われない新しい働き方が少しずつ出てきています。資本主義社会から生まれた8時間労働が変革する時。それは、新たな社会のはじまりなのかもしれません。
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渡部 卓さん
ライフバランスマネジメント研究所 代表。職場のメンタルヘルスケアやワーク・ライフ・バランスに関する研究を行うライフバランスマネジメント研究所の代表を務める。ほかにも、早稲田大学や中国・国立西北工業大学など、4つの大学で講師を兼任。メンタルヘルスや職場環境についてのプロフェッショナルとして講演を行う機会も多い