当たり前のようにできていると思っている“聞く”という行為。ビジネス、プライベート、あらゆるシーンで私たちは話を聞いています。しかし、実は“聞く”行為にもスキルがあるのをご存知でしょうか? いい雰囲気で話を聞き、よい質問を投げかけることができれば人間関係はとてもスムーズになります。今回は心理カウンセラー・澤村直樹さんに、上手な聞き方から始まるコミュニケーション術を教えてもらいました。
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「いつも誰かの話を聞いているし、聞くことのスキルに優劣なんてあるの?」とお思いのアナタ。あるんです。多くの人は意識していないこのスキルですが、聞き上手になることができれば「○○さんは話を聞いてくれる人」というイメージが定着し、次々に情報が集まるようになります。また的を射た質問や相手も気づいていない問題点を引き出す質問ができると信頼感が増し、人望が得られるようになるのです。逆に、話を聞くのが下手だと、人や情報が集まってこないという結果に…。さて、あなたはどちらでしょう?
話を聞くのが下手な人にはいくつかのパターンがあります。自分が当てはまっていないかチェックしてみましょう。
日本の会話は一方が話し手だともう一方は聞き手にまわるという特徴があります(英語圏などでは互いに活発な議論になることが多い)。したがって、話は最後まで聞くのがルール。聞いている姿勢そのものが「あなたの話を大事にしていますよ」というメッセージにもなります。
対話において、聞き手は話し手の4倍頭が回るといいます。となると、聞き手は途中で話の全容がわかってしまうもの。話を先取りしたり、まとめたくなるのはわかりますが、そこはガマンして、最後まで話を聞く姿勢を保ちましょう。最後まで話を聞いてもらえることで、相手は聞き手に対する安心感や懐の深さを実感していきます。
会話の途中で勝手に話を解釈して自分の経験談やアドバイスをはじめる人がいます。一見、会話が続いているようですが、その人の話したい本質的なことを理解できないままに話を切ることになります。こうした早合点の会話が続くと、次から相談相手に選ばれにくくなります。
相づちは「会話維持機能語」と呼ばれ、会話を維持するのに必要なツールです。相づちやうなずきがなく反応が薄いと話し手は不安になるもの。特に悩みを持っている場合、相手は非常に繊細なので否定されているような気になることさえあります。逆に反応が過剰すぎるのも話にくさにつながります。
「でも」「だから」などの言葉は否定や異論があるときに使う言葉。せっかく話をしていてもこうした表現が多くなると相手は次第にプレッシャーを感じ、のびのびと話せなくなります。
聞き上手な人は、相手の話を深く聞く「傾聴力」と相手が話したい本質を引き出す「質問力」の両方を兼ね備えています。それぞれ、どのような心構えとテクニックが必要なのでしょうか。
「傾聴」とは、話を丁寧に聴いて相手が伝えたいことをくみ取ること。カウンセリングにも用いられる手法です。会話の時、話し手は「受け止めてほしい」「共感をもってほしい」「関心をもってほしい」と思って話をしているので、それを念頭に置いて話を聞きます。そして受容・共感・関心を表すリアクションとして、非常に大切なのが“相づち”です。
言語学者の泉子・K.メイナード氏の『談話分析の可能性』によると、対面で9秒、電話で6秒が会話の際に相手のリアクションがないのを待てる限界だとか。相づちは意識して頻繁に打つようにしましょう。
相づちもただ打てばいいわけではなく、バリエーションがあると「ちゃんと聞いている」という合図になります。「はい」「ええ」「うんうん」「へー」など変化をつけ、時々うなずきや笑顔も交えてみましょう。
相づちのなかでも納得感のある表現は相手に「伝わった」という感覚を与えます。「なるほど」「確かにね」のほか、「そうですよね」「そっか」「そうでしたか」など“そう系”と呼ばれる表現も効果的です。
納得の相づちの前につけるとさらに効果を発揮するのが「あっ!」という感嘆詞。例えば、「あっ!なるほど」「あっ!そうですよね」などと文頭にアクセントをつけると、聞き手の納得感がより強調的に伝わるため、話し手が安心できます。局面を変える力もあるので、緊張感のある会話や、「でも」「だって」を使ってしまったときのリカバリーにも効果的です。
質問には、①思考してもらう+答えてもらう ②聞き手の関心を伝える ③会話を維持するの3つの役割があります。答える側にとってその内容は評価の対象にもなるので、質問する側は、話し手にとってなるべく思考しやすく答えやすいものから質問をしていくことが理想です。聞き手は、答える側の負担を減らす質問を心がけましょう。また、どんな答えが返ってきたとしても否定したり、「思っていた答えじゃない」と回答をあせる態度もNG。脱線や雑談に付き合うくらいの気持ちで徐々に質問をつないで核心に迫りましょう。
聞き手側は話を聞いている間、次に何を言うか考えられるため、つい言いたいことを言ってしまいがち。しかし、それでは話し手とぶつかってしまいます。まずは「そうなんだ」「そうですね」とゆったり受け止めてから、「例えばこういうときはどうなんですか」とつなげて、質問しましょう。
「どうですか?」とざっくばらんに質問するという方法もありますが、回答者に答える負担がつきまといます。「私はこう思います」と自分の意見を先に表明すると、フェアになりますし、聞きたい意図も伝わって答えやすくなります。
答えにくさを軽減するもうひとつの方法として、仮定の質問があります。「たとえばの話ですが~ということはないですか?」「もしも~だったらどうですか?」とすると、仮定の話になるために相手も答えやすくなります。
相手の意見に異論がある場合も、いったん受け止め、さらに相手の考えに「つなげる」イメージでこちらの意見を伝えると、相手も落ち着いて耳を傾けることができます。「確かにありますよね、あるいは~ってこともありませんか?」と柔らかくつなげるとよいでしょう。
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状況→問題→示唆→解決の質問をすることでニーズを引き出すSPINという方法があります。いきなり核心をついた質問をするのではなく、まずは相手の状況を聞き、現状の不満などを聞きます。その際に「大変ですね」などと、大いに共感することで、相手の心を開かせます。その上で、「最近、○○ということはないですか?」と核心に迫り、解決へとつなげます。重要なのは、状況→問題のときにいかに共感を示せるかです。
普段はよく話をしてくれるのに、最近元気がない、というときは何か悩みをもっているのかもしれません。ただ「最近、元気ないよね?」とあからさまに聞き出そうとすると、相手はあばかれている気持ちになるのでNG。こうしたときは「なんでもないならいいんだけど、もしよかったら聞くよ」と、気にかけていることをさり気なく伝えるくらいでOKです。悩みを「切り出す・切り出さない」については、あくまでも相手に任せるようにするとかえって打ち明けてもらいやすくなります。また、会社や上司としてではなく、個人的に気にかけているという雰囲気をつくることもポイントです。
怒りや不満を抱えている相手は腹立たしい気持ちをわかってほしいというニーズを持っています。また、高ぶった感情を受け止めるには、こちら側がそれと同じ温度感になることも大切です。そんなときに有効なのが「驚き」です。相手の不満や怒りの感情に「えっ、そんなことがあったのですか!?」と“驚く”という方法で対応してみましょう。そうすることで、相手の感情に自分の気持ちを近づけることができます。そのあとは、共感をベースに話を聞くと相手の気持ちも安定していきます。人は先に理解を向けられると弱いものです。
お付き合いはあるけど、大きな仕事はもらえない。一気に距離を縮めるには? そんなときのポイントは、相手と心の距離を近づけること。人は自分の気持ちを理解してくれる人に心を開くので、なにげない雑談のなかでポロリとこぼれる愚痴を聞き逃さず、「それは大変そうですね」と状況を共有するように意識してみましょう。すると「肯定的に聞いてくれる、感じのいい人だな」となって、だんだん深い話をしてくれるようになります。また、より多く顔を合わせるだけで親密感が高まる単純接触効果もありますので、会う機会を増やすのもひとつの方法です。
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監修 澤村 直樹 さん
心理カウンセラー。毎日の会話に穏やかさを生み出す“傾聴”の考え方を広める団体「アクティヴリッスン」代表。全国2000名の受講生を持つNHK学園「傾聴講座」の監修者であり、著書に『<聞き上手の法則>人間関係を良くする15のコツ』(NHK出版)『損しない人のほめ方の法則』(角川書店)がある。全国各地での講演会やTV・雑誌への登場など、各方面で活躍中。
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- vol.1今さら聞けないネットのイロハ
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- vol.3プロが伝授するスマホ撮影テクニック
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- vol.7定番メニューの正しい食べ方
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- vol.13マスターしたい洗濯のキホン
- vol.14“聞く”から始めるコミュニケーション