日本の年末年始には、さまざまな伝統行事や風習があります。
しかし、そういった行事の作法でも、実は知らないことが意外に多いものです。
そこで、今回は和文化研究家の三浦康子さんに年末年始の伝統行事の正しい知識と作法を教えてもらいました。
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門松、注連縄(しめなわ)・注連飾り(しめかざり)、鏡餅といった正月飾りは、新年に年神様を迎え入れるためのものです。これらは、クリスマス後から年末にかけて飾り始めるのが一般的ですが、29日は“二重苦”、31日は”一夜飾り”といって避けるため、26・27・28・30日に飾るのがよいと言われています。
門松…………………年神様が迷わずやってくるための目印として、玄関前に左右一対にして並べます。
注連縄・注連飾り…年神様をお迎えするのにふさわしい神聖な場所であることを示すので、神棚や玄関、床の間などに飾ります。
鏡餅…………………正月の間、年神様の居場所となります。メインの鏡餅を床の間へ、小さめのものを神棚や仏壇、キッチンなどに供えます。床の間がない場合には、リビングのように家族が集まる場所に飾りましょう。一般的には、三方(さんぽう)と呼ばれる、折敷に台がついたお供え用の器に白い奉書紙、または四方紅(しほうべに)という四方が紅く彩られた和紙を敷き、紙垂(しで)、裏白(うらじろ)の上に鏡餅をのせて、昆布、橙(だいだい)などを飾ります。
■年神様とは…?
昔から日本では、正月に新年の神様が1年の幸福をもたらすために各家庭に降臨すると言われてきました。年神様は、祖霊神であり、田の神、山の神でもあるため、五穀豊穣に深く関わり、人々に健康や幸福を授ける存在。年末年始の行事のほとんどは、年神様にたくさんの幸せを授けてもらうためにあります。
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いよいよ年が明けると、正月です。「正」には「年の始め」という意味があり、1月のことを指す場合もありますが、三が日(元日から3日まで)や松の内(一般的には1日〜7日)をさすのが一般的です。「元日」は1月1日のことを指し、「元旦」は1月1日の朝という意味です。混同している人も多いので、覚えておきましょう。
初詣は、新年の幸福が増すように年の初めに社寺をお参りすることからはじまりました。本来は、自分たちが住んでいる地域の氏神を祀っている神社にお参りしていましたが、現在では知名度の高い社寺にお参りする人が増えています。また、「恵方参り」といって、その年の年神様のいる方角(恵方)にあたる社寺にお参りする習慣もあります。2014年の恵方は、東北東です。
神社の参拝方法について改めて確認しましょう!
1.鳥居をくぐるときは、衣服の乱れを整え、軽く会釈をしてから境内に。
2.参道を歩くときは中央を避けてゆっくりと歩きましょう。中央は神様の通り道です。
3.手水舎で手水をとり、穢れを清めてから。
4.拝礼は、軽く会釈をしてから鈴を鳴らし、賽銭箱に賽銭を入れて「二拝二拍手一拝」し、軽く会釈をして退きます。■初詣はいつまでに行けばいいの?
初詣は松の内(一般的には1日〜7日)に行くのが目安です。松の内とは、門松や松飾りを飾っておく期間、すなわち年神様がいらっしゃる期間を指します。
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実際にお年玉を渡す際の金額ですが、特に決まりはありません。親戚同士で「何歳ならいくら」という風にルールを作って渡すと良いでしょう。
また、お年玉は目上から目下の人に渡すものとされています。そのため、お正月に上司や目上の人の家に挨拶に行く場合は要注意。お子さんにお年玉を渡したくなりますが、本来あげる必要はありません。どうしても渡したいときは、「お年玉」ではなく「玩具料」「文具料」の名目にしましょう。また、名目の問題でなく上司の家族に部下が金品を渡すこと自体を失礼ととる人もいるので、状況にあわせた対応を心がけましょう。■お年玉とは?
もともとお年玉は、年神様の魂が宿った餅を家長が家族に分け与えたのが始まりです。昔は“新年に年神様から新しい魂を授かる”という考えから、元旦に年をとる数え年でした。新しい魂は、年神様の魂が宿った餅を食べることで授かることができ、この餅が「御年魂」=「お年玉」にあたります。そして家長が家族や使用人にこの餅を分け与えたのがお年玉を配るルーツです。やがて、お年玉は餅からお金に変わり、子どもにお金をあげる行為に変わりました。
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年頭に新年の抱負や目標をしたためる「書き初め」。これは1月2日の午前中にやるのが正解。「吉書」ともいい、年が明けて初めて汲んだ「若水」で墨をすり、年神様のいる恵方に向かって祝賀や詩歌を書いたことに由来しています。古くは「吉書始め」という宮中行事も行なわれていました。書いたものをどんど焼きで燃やし、その火が高く上がると字が上達すると言われています。
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御用とは、宮中・政府などの公の仕事のこと。官公庁は4日が仕事始めにあたることから、御用始めといいます。挨拶をする際は、「明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします」と言い、その後はお互いの関係性にふさわしい会話へとつなげていきましょう。年始の挨拶は、松の内(一般的には1日〜7日)とされていますが、挨拶は早いほうがよいため、7日に近い場合は、「ご挨拶が遅れまして」と添えると丁寧な印象になります。
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寒中見舞いは、二十四節気の小寒と大寒の間(1月5日~2月3日)に出すハガキです。年賀状は松の内に届けるもの。松の内を15日までとする地方もありますが、一般的には7日までなので、相手によっては常識のない人だと思われてしまうかも。7日までに届かない場合には、寒中見舞いを出したほうが無難です。なお、寒中見舞いに余った年賀状を使ってはいけません。
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早春にいち早く芽吹く春の七草の生命力にあやかって、無病息災を祈って食べます。本来は、1月7日を人日の節句といい、七草粥は行事食です。 古代中国では1月7日に人の運勢を占い、7種の若菜を粥に入れて無病息災を願っていました。この風習が日本へ伝わり、日本古来の若草摘みという風習と結びついて、江戸時代に五節句のひとつとなりました。7日の朝に食べるのが正式で、6日の夜に「七草囃子」を歌いながら七草を刻む風習があります。
七草粥には、正月に疲れた胃を休めるはたらきもあります。使われる植物の効能を、しっかりと覚えておきましょう。
芹(せり)………………水辺の山菜。香りがよく、食欲増進の効果。
薺(なずな)……………いわゆるペンペン草。江戸時代にはポピュラーな食材でした。
御形(ごぎょう)………別称・母子草。草餅にも入れられ、風邪予防や解熱効果が。
繁縷(はこべら)………ビタミンAが豊富で、腹痛の薬に使われる。
仏の座(ほとけのざ)…別称・タビラコ。食物繊維が豊富。
菘(すずな)……………蕪(かぶ)のこと。ビタミンが豊富。
蘿蔔(すずしろ)……………大根(だいこん)のこと。消化促進と風邪の予防に。
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1月7日の松の内が終わり、1月11日には「鏡開き」を行います(松の内を15日までとする地方では15日に行う)。現在の鏡開きはパックになっているものがほとんど。それを開けるだけで良しとされていますが、本来は、手で割ったり、木槌などで割ったりしていました。これは、年神様の依り代である鏡餅に刃物を入れてはいけないことや、切腹に通じて縁起が悪いからで、末広がりに通じるよう「鏡開き」と言うようになりました。鏡開きをした餅は、お汁粉や雑煮、かきもちなどにして残さず食べましょう。
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旧暦の1月15日は立春後の満月にあたったことから昔はこの日をお正月としていました。現在は、元日を正月としていますので、小正月と呼んでいます。この日は、豊作祈願や家庭的な行事が多いのが特徴。小豆粥を食べて無病息災を祈ったり、柳の木に紅白のお餅をつけた餅花を飾って豊作を祈願したりします。次に紹介するどんど焼きも小正月の行事のひとつです。
どんど焼き(左義長)
1月15日に行われる「どんど焼き」は、正月飾りや書き初めなどを持ち寄り、神社やお寺の一角に積み上げて燃やすという行事です。その煙に乗って年神様が天上に帰ってゆくとされています。地域によって呼び名が異なり「どんど」、「とんど」などと呼ぶ地域もあります。「どんど」の語源は、燃える様子を「尊(とうと)や尊(とうと)」と囃(はや)し立てたものが訛ったという説と「どんどん燃える」からとったなど諸説あります。
■ 年越しそば
大晦日に、細く長く長寿であるよう願いながらいただきます。
■ おせち
元日からいただくのが一般的ですが、昔は、日が落ちたら一日が終わったとされたことから大晦日の夜に食べる風習もありました。おせちは、年神様に供えるための供物料理。家族の繁栄を願う縁起物が多く、めでたさが重なるよう重箱に詰めます。
■ おとそ
元旦を祝うお酒。清酒を飲む家が多いようですが、本来は薬酒。薬局などで「屠蘇散」「屠蘇延命散」というお屠蘇の素がティーバックに入れられ、販売されているので、利用するのもよいでしょう。
■ 雑煮
年神様に供えた餅を頂くための料理で、新しい年の魂(御年魂、お年玉)を心身にとりこむ意味もあります。地域によってさまざまな種類があることでも知られています。
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三浦 康子 さん
和文化研究家。All About「暮らしの歳時記」ガイド。各メディアで暮らしに息づく日本文化を解説・提案し、NHKラジオ第一「ラジオあさいちばん」などレギュラー多数。「行事育」を提唱し、この春『行事育えほん・親子で楽しむ日本の行事』(仮題)を出版予定。著書『粋なおとなの花鳥風月』(中経出版)、監修書『なごみ歳時記』(永岡書店)などがある。
- vol.1今さら聞けないネットのイロハ
- vol.2天気予報の正しい見方とは?
- vol.3プロが伝授するスマホ撮影テクニック
- vol.4ナンバープレートのあれこれ
- vol.5正しい日本語講座
- vol.6まぎらわしい名称カタログ
- vol.7定番メニューの正しい食べ方
- vol.8冬・星空観賞のススメ
- vol.9年末年始の伝統行事カレンダー
- vol.10愛を深める科学的恋愛テクニック
- vol.11手書き力がアップする美文字レッスン
- vol.12春らんまん・桜の観察入門
- vol.13マスターしたい洗濯のキホン
- vol.14“聞く”から始めるコミュニケーション