メールや訪問先での商談など、ビジネスのシーンに正しい言葉遣いは欠かせません。
しかし、日本語は敬語や似た言葉の多さから、つい間違った言葉を使ってしまうことも。
そこで今回は、国語学者の北原保雄先生に間違いやすい日本語の、正しい使い方を教えてもらいました。
今や、ビジネスには欠かせないツールとなったメール。気軽にコミュニケーションができるメリットがある一方、
間違った日本語を使ってしまう人も増えています。ここでは特に使う機会が多い、4つの文例について伺いました。
目上の人に対して「了解しました」
一見、先方を立てているように思えますが、「了解」は「理解したうえで、承知・承諾すること」。敬意に欠ける言葉なので、上司や取引先などの目上の方々に対して使うのは不適切です。こういった場合は敬意の程度によって下記の4つの表現を使い分けるのが一般的です。
【正しい表現】
「様」と「御中」と「各位」の使い分け
「様」は個人に対して、「御中(おんちゅう)」は会社や団体に対しての敬称。「各位」はたくさんの人に一度に送るときの尊敬語です。また、「御中」は、「株式会社○○御中 ○○様」のように宛名の途中で使ってはいけません。
【誤用例と正しい使用例】
初めて連絡する時、「はじめまして」でOK?
初めてなので「お世話になっております」と書きだすのはおかしいと思いつつ、「はじめまして」では改まっていない印象に。こんなときには、以下のような言葉を使うのがスマートです。
【正しい表現】
「取り急ぎ」は文末のみ? 使うこと自体が失礼?
もともと手紙のお礼状等に使われていた「取り急ぎお礼まで」のような表現。最近はメールでも使われるようになりました。この言葉には「丁寧ではございませんが、(お返事やお礼が)早いほうがいいいと思いましたので」という意味があります。文末に使われることが多いですが、文中に使っても問題ありません。問題なのは、「取り急ぎお送りいただけますか」のように他人に使う場合。自分にのみ使うのが望ましい言葉なので注意しましょう。また、「取り急ぎお礼まで」がぞんざいに感じられる場合には、「取り急ぎお礼申し上げます」や「手紙を差し上げるべきところ失礼とは思いましたが~」のように表現を丁寧にするとよいでしょう。
ビジネスのシーンでは相手を高めようとするあまり、敬語が過剰になり、二重敬語や敬語連続になってしまうことも。
また、誰を高めているのかが不明な迷走敬語もよく聞きます。正しい敬語のしくみを理解しましょう。
【二重敬語】
【敬語連続】
敬語の基本形は、尊敬語ならば「お(ご)~なる」謙譲語ならば「お(ご)~する」。それ以上に敬語を重ねて、「お(ご)~なられる」などと使うのは過剰な敬語になります。また、特定の尊敬語や謙譲語がある場合はそちらを使ったほうがすっきりします。
【特定の敬語が存在する日本語(一例】
「お返事」「ご連絡」のように「お(ご)」をつける言葉があります。これは、例えば「社長のお手紙」のように使うと社長に敬意を払った尊敬語となり、「お水を買った」などはものごとを上品に言う美化語となります。美化語は男性が過剰に使うと女性的なイメージになってしまうのでご注意を。また、「こちらは弊社の鈴木が担当したお仕事です」など、自分の動作や物事につけると間違った言い方になります。
普段、使っているためについ出てしまう若者言葉。ビジネスの現場で多用すると軽いニュアンスになってしまいます。
また、ぼかし表現が多いので、責任感のない印象を与えることも。正しい日本語の使い方を覚えておきましょう。
~みたいな
ぼかし表現といわれる若者言葉です。クセになってしまう言葉のひとつですが、本来は「~のような」「~といった」でつなげるのが正しい使い方です。
【正しい表現】
~な感じです
これもぼかし表現の代表です。物事を断定したくない気持ちの表れで、昨今の若者によく見られる表現です。クセになっている人も多いので、意識して直すようにしましょう。
【誤用例と正しい使用例】
~っす
体育会系出身の男性ビジネスマンが使ってしまいがちな言葉。いつまでも青臭く、ぶっきらぼうな印象を受けます。ビジネスの現場では「です」とはっきり言えるようにしましょう。
~的な
「私的には」という使い方は「ほかの方はともかく私の意見は~」と多少の慎みが感じられなくもありませんが、ストレートに言うことを避けているニュアンスがあります。
【正しい表現】
若者言葉は誰かが使い始めたものが、流行のように広まっていくことがあります。まわりに流されず、使ってみて「変だ」と思ったら、辞書にあたるなどして間違いだと気づくことが大切です。すなわち、「変だ」と思う意識、言葉に対する無頓着さをなくすことが第一歩です。
また、若者言葉は曖昧にぼかした言葉が多い傾向にあります。断定しない言い方に、自信のなさが表れているようです。こうした言葉が流行ってくると、いさぎよい、はっきりとした物言いをした人に好感が寄せられます。正しい言葉づかいは、まわりから一歩抜け出し、言葉から“いさぎよい人”になるチャンスかもしれません。
当たり前のように使っているけど、本当の意味は微妙に違う…。そんな、勘違いをして覚えている言葉やことわざはありませんか?
ビジネスマンが使いがちで、間違いやすい慣用表現を集めました。
敷居が高い
「高級すぎたり、上品すぎたりして、入りにくい」などとして使われますが、本来は不義理や面目のないことがあって、その人の元に行きにくいときに使います。
【一例】
浮き足立つ
本来の意味は、恐れや不安を感じて逃げ腰になること。何となく、ワクワクしたニュアンスを交えて誤用していませんか?
【一例】
確信犯
「悪いと分かっていながらなされる行為」という認識を持って使われがちですが、正しくは、「政治的・宗教的・思想的な信念に基づいて行われる犯罪を指す言葉」です。
【一例】
似ているがゆえに意味を取り違えて覚えている言葉があります。一方、言葉は似ていても意味が全く違うものもあります。それぞれの正しい意味を理解して、きちんと使いこなせるようにしましょう。
「承る」と「賜る」
「承る(うけたまわ・る)」は「聞く」「伝え聞く」または「受ける」「引き受ける」の謙譲語。「賜る(たまわ・る)」はもらうの謙譲語となり、ふたつは全く別の意味です。お客様の話を聞くときなどは「承る」を使い、贈り物などをもらったときは「賜る」を使います。
「役不足」と「力不足」
「役不足」は、役がそのひとに対して不足していること。「私には役不足で、とても引き受けられない」はNG。この場合、正しくは「力不足」です。つまり、この言葉は正反対の意味を持っています。間違って使うと、図々しい言い方になってしまうことに。
「煮詰まる」と「行き詰まる」
「煮詰まる」は交渉が難航したときなど、困難な状況で使われているのをよく聞きます。しかし正しくは、討議・検討が十分になされて、結論が出る段階に近づくというポジティブな意味です。困難な状況で使う場合は、「行き詰まる」を使いましょう。
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北原 保雄さん
国語学者。新潟産業大学学長。明鏡国語辞典などを編纂し、言葉をあつかった多数の著書を上梓。『問題な日本語』はベストセラーとなるなど、日本語ブームの火付け役としても知られる。
- vol.1今さら聞けないネットのイロハ
- vol.2天気予報の正しい見方とは?
- vol.3プロが伝授するスマホ撮影テクニック
- vol.4ナンバープレートのあれこれ
- vol.5正しい日本語講座
- vol.6まぎらわしい名称カタログ
- vol.7定番メニューの正しい食べ方
- vol.8冬・星空観賞のススメ
- vol.9年末年始の伝統行事カレンダー
- vol.10愛を深める科学的恋愛テクニック
- vol.11手書き力がアップする美文字レッスン
- vol.12春らんまん・桜の観察入門
- vol.13マスターしたい洗濯のキホン
- vol.14“聞く”から始めるコミュニケーション